「な、何で狂犬カズがこの店に…?」
かつて支払いが滞った明美をホストの麗都から守った因縁があった。
その時を知る者は明美以外居ないが、和夫は麗都の様変わりに気付いた。
「お前ら、仁誠会の叔父貴はウチの青龍会の親父と義兄弟の盃を交わした仲ってことを知らねぇわけじゃあるまい?」
かつての狂犬カズなら、独力で解決しようとしていただろう。
だが明美との出会い、瑠璃子との出会い(実際には友子との再会)が和夫に柔軟な知恵を供えさせていた。
「狂犬カズは青龍会側かよ…、ヤベえよ麗都…。」
「ば、バカヤロ、ハッタリだ!ヤ、ヤクザの名前出せばビビると思うなよ!」
と言いながら、明らかに動揺する姿に、さっきまで泣いてた店の女の子達から失笑が起きる。
「明美が金を踏み倒してるのが事実なら、俺から謝る。本当に済まない」
と、中腰で頭を下げる、業界人特有の仕草をする。
麗都の取り巻きから嘲笑が上がるのも束の間…。
「で、幾らだ?直接俺が鍋川の叔父貴に届けてやるよ!」
と言えば、取り巻きも含めて麗都が更に動揺する。
「バカヤロ、俺が取り立てに来たんだ、俺に払えば…。」
「お前、さては破門されてるな?
以前よりみすぼらしい格好、今さらながらの取り立て、そして舎弟の面子の様変わり。
追い詰められた挙げ句にここの店を狙ったか?」
「しかも明美姐さんが居ないの知ってて大勢で店に来るなんて卑怯者!
騒げばお金出すと思ったんでしょ!」
怒る瑠璃子をまぁまぁと宥める和夫は、かつて、友子に取った態度と同じだった。
「悪い事は言わねえ、帰んな。お前も両方の組から追い込みかけられたくねぇだろう?」
「そんな…そんな…。」
「小悪党が…。俺も踏み外せばこうだったかと思えばヘドが出る。」
「も、もう終わりなんだよ!金が無きゃ、俺に明日はねえんだよ!
この人数で勝てると思うなよ!」
やれ、と命令する麗都。
「わかってるよ…。」
近くの椅子を掴み、投げつける和夫。
しかし、大きく外れた椅子は店のガラスを割り…。
途端に店内の照明が消え真っ暗になる。
「キャー」と声が上がるのを制し、
「非常口の灯りを目指して逃げろ!」
と、和夫の声が飛ぶ。
「バッチリのタイミングだぜ、三郎。」
暗闇で冷静に動ける和夫に、敵の頭数はハンデにもならなかったが…。
「イヤー、助けて!誰か、誰かー!」
過度に暗闇を怖がる女の声がした。