高まる鼓動、紅潮する頬。
逸らしてしまう視線…。
瑠璃子は隣に座る和夫の話に相槌を打ちながら、確実に恋をしている自分を認識した。
それと同時に友子としての自分は「好きだった」という過去を「思い出していた。」
(何があっても私は『瑠璃子』でなきゃいけない…。
瑠璃子として出会い、瑠璃子として別れなきゃ…。
でも…。)
(駄目だ!瑠璃子さんは瑠璃子さんだ!
顔もスタイルも全然違うけど、どうしても生真面目で不器用だけど思い遣りのある友子に重ねてしまう…。
とびきりの美人ってだけでも俺には勿体無いのに、『友子に似てるから』なんて失礼過ぎる!
瑠璃子さんは身代わりでもなければ、リハビリ相手でもない。)
(そうよ、私は生まれ変わったのよ。何も知らずに信じてくれた明美姐さんの為にも私は幸せにならなきゃ…。)
『友子はもう居ない!!』
二人が同時に同じ言葉を心の中で繰り返した時、入り口付近で大声を上げる男の声が聞こえる。
「あ、あのですから明美は退職されまして…。」
数人の男に囲まれて胸ぐらを捕まれたマネージャーがしどろもどろに対応する。
「明美は借金があるんだよ!さっさと連れてこいや~!」
女の子達の悲鳴が上がる。
「(あの声…。まさか?)すみません、ちょっと失礼します。」
「瑠璃子さん、危ないことはやめな!」
「私、店を守ります!」
「(真っ直ぐな娘だ…。だが、あのチンピラどこかで…。そうか!)慎平!親父さんに兵隊の依頼だ!行け!
三郎、お前はこのビルの管理センターに行け!合図は俺が送る。タイミングを合わせろ!」
舎弟に指示を出し、立ち上がる和夫。
「この店は俺を舐めてんのか!俺の親父は仁誠会の幹部だぞこの野郎!」
女の子達は泣き出し、男性スタッフは無差別に殴られる。
異常を感じた客が我先にと逃げ出す中、三郎と慎平もそれに紛れ店外に出ることに成功した。
「申し訳ございません、お客様。
お金に関しては後日連絡しますので、今日はお引き取りくださいませんか?」
「美人の姉ちゃん、勇気あるな。だが、そうか、と言って帰れねえな。姉ちゃんが『一緒に』帰ってくれるのかい?」
「開店前にシフト確認の電話した声の主ですよね。明美姐さんが居ないと最初から知ってて…。卑怯者!」
瑠璃子の平手打ちは、学生時代の友子と同じだった。
「仁誠会と言えば鍋川の叔父貴は息災かい?ホストの麗都!」
『狂犬カズ!!?』