去らなければいけない、と思っていたのは友子も同じだった。
明美はある意味、和夫以上の恩人だった。
男漁りではなく、仕事としてお水のいろはを指導したのは明美だった。
和夫は幼なじみではなく、今や恩人の明美姐さんの「彼氏」だ。
いや、そもそも瑠璃子としての自分は和夫とは何の関係もない女だ。
友子は整形して手に入れた自分の美貌が恨めしかった。
学生時代から想い続けた和夫でさえ、瑠璃子の外見に惹かれるという現実が辛かった。
明美姐さんという恋人が目に入らなくなるほど「瑠璃子という自分」に夢中なのが腹立たしかった。
「消えなきゃ…。」
和夫が完全に本気になる前に店を辞めようと思った。
最後に和夫に会えたのは神様の祝福と思いたかった。
そして大好きな和夫が大好きな明美姐さんと結ばれることを想像すれば、自分の人生の幕引きには十分過ぎるラストシーンに思えた。
しかし…。
いつもより早く出勤してマネージャーと面談するつもりが…。
「瑠璃ちゃん!大変だよ!明美ちゃんが突然辞めたんだよ!
君にはこれから負担になるだろうけど、大丈夫!君なら明美ちゃんが抜けた店を支えてくれるさ!」
「明美姐さんが…?私より先に…。」
友子は苦しみと悲しみに耐えられなかった。
またしても自分が周囲の人間を不幸にしたと思ってた。
「あの~瑠璃子さんちょっと…。」
梨理亜(りりあ)という同時期に入った娘に呼び止められた。
そして明美から瑠璃子宛の手紙を預かったことをマネージャーに内緒で渡した。
「大好きな瑠璃ちゃんへ。
勘のいい瑠璃ちゃんのことだから、私が辞めた原因がわかるだろうけど、どうか瑠璃ちゃんは自分を責めないで。
そして和夫との事がはっきり答えが出るまでお店に居てほしいの。
和夫と結ばれて辞めるもよし、和夫を振って辞めるもよし。
あいつが覚悟決めるまでどうかお店に居てください。
それからの事は梨理亜に任せてあるから♪
どうか瑠璃ちゃんは瑠璃ちゃんらしく生きてください。
白衣の天使のつもりの明美より
追伸 もしも和夫を受け入れる選択をするのなら、和夫の学生時代の好きだった娘をなるべく許してあげてね。
私は最後まで許せなかったけど。
追伸2 落ち着いたら、こっちから連絡します。その時は梨理亜も誘って一緒にオープンカフェでも行こうね。
暫く酒は遠慮するわ。」
読み終えた友子は、最後の仕事に気合いを入れた。熱心に通う和夫相手に