「いらっしゃいませ。」
胡散臭い笑顔に出迎えられ、最上のもてなしをしてくれてるはずだったが、山根友子の心は晴れなかった。
先輩に連れられてのホストクラブデビューとなったのだが、いざ客の視点で視ると、自分の行いが恥ずかしくなってきた友子だった。
ホストもキャバ嬢も大地に根を張り精一杯生きていた。
「自分」をぶつけてお金を稼いでいるのだ。
それに比べ友子は、親の遺産で整形して瑠璃子となり、客と関係を持つことにのみ一生懸命になり、その場の快楽に溺れていた。
しかし、今目の当たりにしている世界も、友子が真面目に働き、他のキャバ嬢とコミュニケーションを取れる様になった結果なのだが…。
「お待たせ致しました。」
それは突然、前触れもなく訪れた。
逢いたいけど逢えない。
逢えないのに逢いたくない人間に遭遇したのだった。
No.1しか着ることを許されない白スーツ。
高級時計にネックレス、髪も染めていても、友子にはすぐわかった。
(何で…?何で和夫がここに居るの…?)
「遅いよ、カズー!
私を待たせるなよ♪」
先輩キャバ嬢は馴れた口調で話すが、それは常連だからとの雰囲気以上だった。
「おい、明美!ここには来るなって言っただろ!
お前の支払いは結局俺だし!」
友子と一緒に付いてきた二人の同僚もざわつき、後輩ホストも
「カズさん、その…他のお客様も居るから、あまり内々の事情は…。」
あっさりと先輩キャバ嬢・明美との関係を喋る和夫。
この拘りの無さこそが「狂犬カズ」をNo.1に押し上げた要因でもある。
「いいじゃない、カズ!今日は後輩の瑠璃ちゃんのホスト初体験なんだから♪
あっ、あたしとカズの関係は一応秘密ね。」
顔と身体を整形し、どんなに美しくなったつもりでも、友子は今日ほど自分を醜いと思ったことはなかった。
始まりは自分の母と和夫の父が不倫の末に心中したこと。
そしてそれをネタに同級生から暴行されそうになったこと。
そして助けてくれた和夫を汚い言葉で傷つけてしまったこと。
全てをなかったことにしたくて友子は瑠璃子となり生まれ変わったつもりだった。
しかし、外見は変わっても、何ら昔と変わらないのは幼なじみにて恩人のその男らしい声だった。
友子は「決して自分が整形前の幼なじみの友子」だという事がバレてはいけない、と肝に命じたつもりだったが…。
「なぁ、あんたどっかで会ったことないか?」続