「志磨子先生、今月もあれでOKだよ。
でも最終回であまり急ハンドルを切り過ぎないようにだけ注意してね。」
「最終回?まだ連載は始まったばかりでは?
あぁ、そうでしたね、島さんが書いた原稿が印刷されて出版されるのは何ヶ月も先ですから、もう完結の打ち合わせをしていてもおかしくないのですね。」
「そういうこと。流石に南部ちゃんでも結末は内緒よ♪」
「承知しております。
書店に並ぶのを楽しみにしています。」
「あぁ、いいのに。南部ちゃんには選手寮に毎月おまけ付きで最新号を直送してあげるから。」
「小包の品目に『えすえむ雑誌と手錠』と記述したのはわざとでしょうか?」
「思いやりよ。」
「来月からは『雑誌』にしてください。
今月は自分が直接受け取ったから良かったものの…。」
「でも、読んでくれるんだね…。嬉しいよ…。」
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和夫はホストとして経験を積んでいた。
元々、美男子でも気配りがあるわけでもなく、話上手でもない。
あるのは他人に対して一生懸命な気持ちだけだった。
接客のいろはを無視したお節介のごり押し。
それは裏路地のチンピラ「狂犬カズ」と何の変わりもなかった。
金遣いの荒い客を叱りつけながら説教し、男に騙された客には、その男を殴りにいった。
真面目に社会復帰したがってる客には、就職の世話までした。
チヤホヤされることに馴れきったホスト通いの女には、和夫は何とも不思議な存在だった。
彼の無尽蔵な体力と気力の源は何かと気になり出せば、和夫の魅力に参っていた。
破天荒な和夫の接客術は、和夫をNo.1に押し上げるのに時間はかからなかった。
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友子の環境も変わりだしていた。
ボーイの翔太との情事は寧ろ追い風となった。
けっこう人畜無害な気弱な青年を装っては店の女の子に手を出してたらしい。
先輩キャバ嬢が
「よくぞ仇を討ってくれた!偉い、瑠璃ちゃん!
女の敵だった翔太の放出記念パーティーよ!あたしがホストクラブ奢るわ!行ったことないでしょ?これも勉強よ」
と言った。
友子は別に何もしていない。
ただ目隠しが怖くて泣いただけだ。
自分がキャバ嬢とか店の男とか関係ない。
ただ怖くて泣き続ける姿に、彼も思う所があったのだろう。
彼が足を洗ったか、違う場所で同じ事をするのかわからない。
ただ自分と肌を合わせた男が不幸になるよりかはそれなりに幸せになってほしい、但し、私の知らない所で。と思う友子だった。