「…少しくらい上手く行かないことがあっても…誰も島さんを責めませんよ…。
高校時代が順調過ぎて、大学生活と作家活動の両立に戸惑っているだけでしょう。」
「南部ちゃん…。違うの、私は別に泣き言を…。」
「安心してください。
島さんが辛くなった時は、自分が入浴剤を携えてまた一緒にお風呂に入りに行きますよ…。
さぁ、背中を流しましょう…。」
その言葉で何かから解放された私は、まるで子供のように一緒に身体を流し合い、シャワーを掛けあい、そしてお互いのことを語った。
「は、はい…。
蒼磨様とはこういった形の入浴は…ありま…せん…。
自分はお仕えする身でしたので、きちんとタオルを巻いて、湯殿番として背中を流す使命を果たすだけであり…。」
「それはメイド時代の時でしょう?
彼氏彼女の仲になってからもそうなの?」
「は、はい…。蒼磨様から混浴のお声は未だに…。
やはり暗がりでの房術と違い、混浴は観賞に耐え得る美貌が殿方にとって最優先なのでしょうか?」****
暗がり…。
そう、一夜の愛欲に溺れる友子にも自由にならないことがあった。
必ず灯りを消さないという約束を守らせることだ。
遠くに行こうが、整形をしようが、暗闇と目隠しだけは友子のトラウマとなり苦しめるのだった
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「ちょ…南部ちゃん、そんなんで悩んでたんだー?
あ~、もう可愛いなぁ~。
大丈夫だって!結婚して子供授かってもお風呂は別って夫婦も居るし、美貌って、南部ちゃん十分可愛いじゃない?」
「し、しかし…。」
元気無さげに視線を落とした先には…。
「皆まで言うな同志よ…。こればかりは抗えぬ現実よのう…。
努力しても大きくならないのは私も一緒よ!」
「男性はどうして大きな胸が好きなのでしょうか?」
「私が知りたいわよ!そういう理(ことわり)がわかんないからエスエム小説書いてるの!」
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そう、似ていた…。
愛の無い相手に抱かれる山根友子の行為を『自傷行為』と言うのなら、手前勝手な正義感で傷つけ傷つけられる事に首を突っ込む田中和夫も十分に『自傷行為』と言えるだろう。彼の孤高の強さに一時的に惹かれ、夜を共にした女も居たが、愛は深まることはなかった。
最愛の女性を守った直後に、口唇を拒否され平手打ちされた和夫。
どんなに他の女を抱いても、他の女が抱かれたがっても、彼は『キス』という行為が出来なかった。
あの時の出来事は二人に傷を作っていた。