『狂犬カズ』は今日も人助けをしたつもりだった。
(けっ、弱っちい連中だ。うさ晴らしにもならねぇ。俺だけ無傷じゃ友子に申し訳ないんだよ…。)
路地裏に連れ込まれた女性を助けたつもりだったが、支払いが滞ったホスト狂いの女も十分に悪かった。
「ウッソ~、君みたいな可愛い坊やが『狂犬カズ』?
私ってラッキー♪
ねぇ、これ私からの軽いお礼…。」
和夫の首に腕を絡ませ、顔を寄せる女。
派手なファッションに限らず、これだけでどんな女かたかが知れる。
近づく口唇に顔を背け…。
「悪ぃ、俺、キスだけはトラウマなんだ…。」
「ふぅ~ん、そういう事♪
じゃあ、ホテル直行でもいいんだけど、あたし持ち合わせないし、君に払わせるのもね~。」
「あんたさえ、良かったら俺ん家近いぜ…。」
愛の無い行為に溺れるのも和夫の日課になっていた。
高校時代に想いを寄せた友子の身体は守れても、心まで守れなかった、と和夫は身も心も堕とし、「友子に愛されなかったのではなく、愛など最初から存在しない」と思い込もうとしていたのだった。
愛が最初から存在しないなら、自分が違う女とキスしようとすれば恐怖と吐き気がフラッシュバックし、高校時代の友子を求めてしまうのも、愛が成せる業と気付くにはもう少し先の話だった。
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私達のお風呂タイムはいつまでも続くかと思った。
文字通りの裸の付き合い。
今夜の出来事は私達のどちらかが先に結婚したり、子供を授かったり、お互いの仕事で何か変化があったとしても、「永遠」を感じるには十分だった。
「あ、ごめん、ごめん。
私としたことが『オモチャ』を入れるの忘れてたわ。」
「オモチャ?防水仕様をお持ちとは流石島さん…。
あっ、そういう事ではなく、いけません!そこまでの一線を越えることは、友情を逸脱した蒼磨様と島さんの彼氏さんに対する背徳行為…!」
「どしたの南部ちゃん?
お風呂に入れるオモチャってこれだよ

「……。」
「……。」
「うわぁ~ん。」
「『お風呂に入れる』と『お風呂で入れる』を勘違いしたえっちぃサッカー選手は誰かにゃ~。」
「ひ、卑怯ですよ、島さん…わざとですね…。」
「ふふん、この子ピヨちゃんは、まだパパとママが元気だった頃に、珍しく私がおねだりして買ってもらったんだ…。今じゃ二番目の親友だよ…。」(続く)