鬼の姿を解放し、蔵間さんと井成さんのケンカを止めた鬼頭さん。
体長3メートルあまりの真の姿を晒した彼は、本当に鬼そのものだった。
「お前らが店で暴れたら、不在のロビン店長に申し訳がたたん!
おら、スタッフに謝れ!」
右手に井成さんを、左手に蔵間さんの襟首を掴み、宙吊りに吊し上げる鬼頭さん。
鬼頭さんの「本気」を感じ取り、足をブラブラさせながら、店のカウンターに向かい、頭を下げる二人。
「すみません…。
店内で暴れようとしました…。」
「ここで『天狗の団扇』を使ったら大変なことになってました…。
ごめんなさい…。」
巨大化?した鬼頭さんを基準に見れば、二人の男性はとても小さく見え、まるで人形遊びをしているようだったです。
「おら、次はレディーに謝れ。」
と、二人の襟首を掴んだまま、身体の方向だけ私達に向ける。
二人同時に「ごめんなさい」とハモった時は、本当に腹話術人形に見えたです。
「全く…。これで女性陣から怖がられるのは、お前らを止めた俺なんだからな!損な役目だぜ…。」
それは「怖がられること」に慣れ切っている「鬼」の悲しくも寂しげな姿が映っていたです。
男性二人から手を放し、着席させたものの、重苦しい沈黙が続くなか、ウェイターのグラシャ=ラボラスさんが…。
「鬼の兄ちゃん、男前だったぜ!しかし、変身するたびにせっかくのスーツが台無しになるのは妖も大変だな。
待ってな、今、着替え持ってこさせる。」
と、カウンターの御子神さんに伝えようとした時、
「いいえ、着替えはまだいらないです!
鬼頭さん!人間の姿になるのはもう少し待ってください!」
と、言ったのは沙代理さんです。
鬼の姿の鬼頭さんを見つめる姿が今までと違うです。
「…誰も怖がってませんよ。
大きな身体も、その角も牙も、鬼頭さんの本当の姿じゃないですか。
店の為、私達の為、そして友情の為に躊躇なく妖怪の力を解放した鬼頭さんはとっても逞しいと思います。
それは大きな身体とかじゃなくて…。
私は頼りがいがある男性が好きです…。」
「おいおい、本当に俺のこの姿が怖くないのか?」
「当たり前でしょ!うん、わかった。こうしたら信じてくれる?」
「やるねぇ、逞しいのはお嬢ちゃんも一緒だなぁ。おい、御子神!男物の着替えはいいから、金タライ持ってこい!」
と、グラシャ=ラボラスさんの声が響くと同時に、沙代理さんは美しい人魚に戻ったです。