「私にかけた魔法で私になる。」
なぞなぞでも、詩でもなく、文字通り「私」になる。
変装の名人ルパン三世も、自分に変装したことはあるのだろうか?
人間が来店しない曜日には、鳥の姿でピアノを弾き、歌声も披露したことはあるが、それでも人間・鳳明日香として歌声を披露したり、気軽にお喋りしたいと思う。
私がフェニキアの守護鳥だろうが、ソロモンの悪魔だろうが自分では叶えられないこと…。
でも今それが井成さんの力を借りることによって叶おうとしている。
「…何が目的なんだ?あんた…。」
憔悴仕切って私を恐れる彼。
無理もないわ。
散々、人間の時の私の醜い声を聞かされたんだから…。
私だって嫌です!
「目的?合コンを続けることよ♪」
「…あぁ、そうだな。
だが俺の幻術は本当に貴女を変身させるわけじゃない。
貴女に視線を注ぐ任意の人間、つまり俺が認識した人間に鳳明日香という幻を見せるだけだぜ?」
「それで十分だわ。」
「妖狐の狐火は万能じゃない。
いつまでも術が続くわけじゃないぜ!
俺がその都度かけ直さないと…。」
「…じゃあ…私が困らないように…ずっと…傍に…居てよ…。」
「何?それってどういう意味?」
「バ、バカ!聞き返さないでよ!
そういう意味よ!わかった?
君に断る権利はないんだからね!?」
「わかったよ!
機嫌を損ねてまたあの無限ループに落とされたらたまんねぇからな!」
「そうよ!君の存在は私の手の中なんだからね」
(バカ、私そんな酷いこともうしないのに!)
「取りあえずその火の鳥の姿で照れるなよ。」
「バ、バカ!照れてないです!
だ、だから君の術が必要なんでしょう!
幻術使いじゃなかったら、何の価値もないんだからね!」
(ウソ、ばれてた?もうヤダ~)
「じゃあ、取りあえずこの暗黒空間から出してくれ、そしてみんなにかけた狐火の幻術を解く。」
「いいえ、君が術を解いたら、みんなの心は変わらないわ。
都合が良すぎる甘美な夢から脱出するには…。
『ひとかけらの勇気』
」
暗黒空間は消滅し、時間は再び動き出した。不死鳥が纏う炎は、狐火以上に仲間を熱く、眩しく照らし返して。
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「ごめんね、幻くん♪
私が好きな近藤くんは怖がりで頼りないけど、がんばり屋で優しい男の子なんだ…。
だから君は近藤くんじゃない!
もしもあいつに彼女が出来たら…、その時またデートしてよ!
バイバイ♪」続