扉を開けると、グラスを磨く男性スタッフが挨拶する。
若い店員はいらっしゃいませーと元気に笑顔を見せたが、店主らしい男性は私の妹の姿を見るなり表情が強張り、深々と頭を下げた。
「いらっしゃいませ…。
ウリエル様もお人が悪い…。
事前に連絡をくださりましたら、使いの者を…。」
「お気遣いありがとう、バルバトス店長。
今日は監査ではありませんから。」
「はっ、ブロッケン、ご案内を…。」
ブロッケンと呼ばれる軍服を着たウェイターが私達を席に案内する。
「さぁ、お連れ様も…。」
「私の姉です。
丁重に!」
「も、申し訳ございません!
ラファエル様とは気付かずに…。」
私を案内しようとしたウェイターに代わり、店主のバルバトスさんがカウンターから慌てて出てきて頭を下げる。
私は妹と打ち合わせ通りのセリフを…。
「お久しぶりです、バルバトスさん。いえ、今はロビン店長ということを忘れていたです。
今日はお忍びです。
楽しませていただきます。」
「はい、最上級のおもてなしをさせて頂きます。」
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「あ~面白かった~!でも直ぐに私達ってバレちゃってつまんないね~!」
「ウリエルは悪のりし過ぎです!
私達は人間界で暮らす以上、天界の権限を傘に着るような振る舞いは自粛すべきです!」
むぅ…。バティンさんから頂いたペアチケットを無駄にしてはいけないと思い、妹を誘ったのが間違いです。
いえ、そもそもバティンさんを仕向けたのもウリエルですから、まさかこうなるのを予想して?
全く、ウリエルは人間界に馴染み過ぎです。
「そんなに怒らないで紅茶とライブを楽しもうよ♪
天使の中には、悪魔や妖怪が経営する店に無理難題を言って、えっちぃ接待を強要する輩もいるんだよ~。」
「ええ、上級天使の腐敗は目に余るです。特に権天使や能天使は戦がない平時に限り…。」
守護天使ラファエルとして、妖怪や悪魔を守る使命があっても、その相手が天界の上層部とは由々しき事態です。
「あっ、姉さんライブが始まるよ!
この店の沙代理さんの歌声と、明日香さんのピアノは生で聴きたかったんだ~。
私を誘ってくれて本当にありがとうね~。」
「私に誘う相手が居ないのは、貴女が一番知ってるですー!」
「ウソ~、姉さん病院にいい男居ないの?
ウチの後輩でよければいつでも言ってね~?」
「遠慮するです。国家に忠誠を誓った男に、ロクなの居ないです」続