聖ヨハネ病院女子寮
「…傷口に残りし思念よ。
守護天使ラファエルの名の下に、私怨を捨て去り、父と子と精霊の愛に抱かれよ…。」
悪魔バティンは腹部の傷の治療を受けていた。
大天使ウリエルの紹介で、癒しの天使ラファエルがナースとして勤める病院を紹介された。
しかし、深夜に時間外で、他の人間に見られないように治療を受けるには、彼女の女子寮の窓を叩くしかなかった。
「治癒(クーラ)!」
紫色の煙が立ち込めたと思った瞬間、妖刀化した虎徹で刺されたバティンの傷口が治った。
「これで大丈夫です。
この手の傷は物理的な損傷よりも、傷口に残り続ける思念が、新たな呪いを呼び寄せない様に断ち切る方が大事です。」
「…流石は大天使ラファエル様だ…。
素晴らしき治療術です。私の様な悪魔族に…。」
「守護課は生きとし生ける者に癒しを与える使命があるです。
バティンさんが悪魔だなんて関係ないです。」
(傷ついたフクロウの姿で私の部屋の窓をノックされたら、治療しないわけにはいかないです。
就寝中でパジャマ姿を、既婚者であるバティンさんに見られる等と、何たる背徳的な…。
ウリエルは絶対にわざと事前に念話を送ってこなかったです!)
「ラファエル様、顔が紅いですが?
まさか、私の傷口からよからぬ感染を…?」
「いえ違うです。
(よからぬ感染には間違いないです。)」
「そうですか、良かったです。」
(私は良くはないです。
バ、バティンさんのその愛想の良い笑顔は悪魔です。いえ、確かに悪魔ですが…。」
「こんな深夜に同室の女の子が大浴場に行ってるのは奇跡的偶然です。
しかし、もうすぐ戻ってくるです。
は、早く…。」
「申し訳ございません。私としたことが『人払い』の術を忘れておりました。」
「そうじゃないです~!
(バティンさんに『人払い』をされてしまえば、夜明けまで邪魔されずに二人きり…。
まだ堕天使になるには早いです~!)
わ、私の術式は終わってすぐに動いても問題ないです。
早く…。」
「ありがとうございました。
では私からせめてもの治療費を受け取ってくださいませ。」
「駄目ですー。バティンさんにはアスタロトさんという奥様が…。」
「ええ、妻と行く予定だった、喫茶ロビンフッドでのライヴペアチケットです。私個人は北御門様をお守り出来ませんでしたので、契約不履行ですから…。
それでは!」
「悪魔なんて大嫌いです!」
完