(わ、わかりました…。演技なんて小学校以来だけど、可哀想な幽霊さんですもんね…。)
「おみねさん。…僕の遠縁は確かに新撰組局長の近藤勇です。
新政府に楯突く逆賊として、斬首の刑となったご先祖様ですが、理想を胸に日本の夜明けと、町の安全に尽力したのは間違いありません。
新撰組局長の近藤勇は我が近藤家の誇りです。
だから僕も僕の父も警察官になったのです。」
優しく、熱く、そして誠実に実体化した幽霊のおみねさんに語る近藤優刑事。
「話かけらる」「自分を認識される」ことにより、おみねさんの止まっていた時間が動き出した。
「ご先祖様…?斬首…?
私は…、私はそれほどの長い時間を…!
私の責任です!
きっと、私が贋者の虎徹を売り付けてしまったから、勇様の戦局を危うく…。
本物の虎徹だったら…。」
一度落ち着きかけたが、再び悔恨の感情が湧くおみねさんが悪霊化するかと思われたが…。
「…ずっと苦しみ続けられたのですね…。
おみねさん、貴女のことは司馬遼太郎先生の「新撰組血風録『虎徹』の項でしか知りませんが、近藤勇は、貴女から買った虎徹を大変重宝されていました。
愛刀。それは言葉通り武士の魂なんです!
自分の命と大切な仲間の命を守る魂に、本物も贋者もありません。」
「しかし、私は勇様を偽り…。」
「おみねさん、刑事さまの言われるとおりです。
贖罪の気持ちはわかりますが、貴女はもう自分を責め続ける必要はないのです。
借金を理由に悪徳商人の片棒を担ぎ、二束三文の贋者を本物と偽り売り付けた。
それが何だと言うのです。
近藤局長にとって大切な刀であったことは、その縁者が証明してるではありませんか!
貴女は罪の意識で商家から虎徹を盗み、再び近藤勇様に届けようとした。
しかし、その盗んだ虎徹も「銘」が入ってる贋者であった。
絶望した貴女は、その刀で喉を突いた。
流れる血で銘を消そうしたそうだ。
そして貴女は誰にも看取られず…。
無念だけをその虎徹に残して…。」
呪術師バラムは毎日、毎日、一人で説得し、成仏を促していたようだ。しかし、当人の血縁に天使と悪魔という「援軍」を得て一気に解決に向かう。
そして、バラム自身が見つけた「援軍」もいた。
悪徳商人ではなく、善良な商家の鴻池の血縁、北御門瞳だ。
「まだ続きがあります。
後に近藤勇は鴻池から贈られた本物よりも、貴女から買った『虎徹』の方が手に馴染むと言い続けたのです。」