未来が見える「人間」バラムは、動きを予測することで虎徹を握ったバティンと何とか互角の勝負していた。
だが、悪魔と人間との体力差が出てきた。
そしてオフィスにある者だけで日本刀に立ち向かうのに限界を感じていた。
灰皿、電話、キーボード。
使える物は使ったが、仮眠室に追い込み、封印の儀式を再開するほどの決定打を与えられなかった。
今もビニール傘の先をバティンの喉元に向けて牽制するので精一杯だった。
その時、おみねさんの霊はバラムを攻撃するより、奇怪な行動に出た。
「…違う!勇(いさみ)様にお届けする虎徹は、こんな贋者ではない!本物には…銘が彫られていない!
銘があってはいけないのだ!」
悪魔バティンに取り憑いた「おみねさん」の霊は、バティンの左手で刀身を握らせた。
「…痛っ。」
と、見ていた北御門がその光景に目を逸らす。
バティンの手のひらから流れる血液を、虎徹の柄に伝わらせる。
「…そうだ。これでいい…。
虎徹に銘があってはいけないのだ…。
今までは騒ぎを起こせば、持ち主が怖がって虎徹を手放し、所有者が転々とすればいつか勇様に再会出来るはずだと思っていた…。
だが…この肉体はいい…。
今まで融合した人間とは全然違う…。
この肉体なら私は何処へでも直ぐに行ける…。
これなら勇様も直ぐに見つかる…。」
「ねぇ、いい加減にしてよ!虎徹とか幕末とか、一世紀半も昔のことに拘り続けないでよ!
もう貴女の想い人もどうせこの世に生きてないわよ!
これ以上迷惑かけないでよ!
原さんも大切だけど、その人の肉体から離れなさいよ!
その人は一度私を庇ってくれたんだから!」
「へ~、けっこう肝が座った女性じゃない!
でも、『一世紀半も前のこと』なんて、誰かに聞かせてあげたいわね?」
「…意地が悪いですよですよ…!ウリエル姉さん!!」
「ガシャーン!!」
との大音響とともに、高層ビルの窓を蹴破り登場した、大魔王サタンの佐田星明と、その姉である大天使ウリエルこと警視庁の宇都宮真樹。
「佐田くん!?どうしてここに?
そちらの女性は?
ちょっと、奈々子ちゃんと今は遠距離だからって…。」
「誤解です、北御門さん。
私の姉です。これでも女刑事ですので…。」
「お姉さん?うわぁ、確かに姉弟そっくりの美形遺伝子ね~、羨まし…って、刑事さん?丁度良かった…。早く原さんを助けて!
けどあの男性は…。」
「大丈夫!天使に任せてよ」