「ぐぅああぁ…。」
と、痛みに耐えながら腹部に刺さった「妖刀」を引き抜くバティン。
人間と同じ赤い血を流し、虎徹の柄を握る。
悪魔の精神さえも支配する、『おみねさん』の霊は、虎徹を妖刀と呼ぶのに十分であった。
「…違う…。お前もあの方ではない!
私はあの方に本物を渡すまで死ねない…!」
悪魔バティンの低い声が女性の高い声に変わる。
躊躇なく、目の前にいる原宗時ことバラムに刀を降り下ろす!
咄嗟に仮眠室の扉の前に設置された筒型の灰皿を持ち上げ、難を逃れるバラム。
その姿を見て絶叫する北御門瞳。
「わ、私を一度は守ってくれた男性が、今度は原さんを襲う側に…あんなに血が流れてるのに…!
け、警察を…、いえ、一階の警備?非常ベルかな?」
混乱する北御門をバラムが制止する。
「いけません!誰を呼んでも来た人間が傷つくだけです。
…ですが貴女に『逃げろ』とも言えない…。
おみねさんの『念』を浄化出来るのは、鴻池の血を引く貴女しかいない。
私がこの虎徹を無力化しますから、貴女は祈っててください。
そう、ただ本物を届けたかったという、おみねさんと気持ちを同調させて祈るだけでいい…。」
「そ、それで原さんは?どうか危険な事 は…。」
「…大丈夫…とは言えません。相手は妖刀虎徹に、持ち主は『瞬速』。分が悪すぎますが、私にも我流の『神速』があります。」
虎徹を握るバティンは、一瞬で原の背後に現れ、刃を向ける。
原はデスクに手を伸ばし、盾にしたキーボードがチーズのように簡単に切断される。
「原さん、逃げてください!」
「バティン様から逃げられたらそうしてますよ。
ここは逃げない方が安全なのです。」
キャスター付きの椅子を蹴って滑らせる。バティンもイスを蹴るが、その間に虎徹が届かない距離は取れた。
机の上の固定電話を確保するには十分だった。
本体と受話器を繋ぐカールコード。
左手で本体を持ち、右手はカールコードの真ん中を握る。
ブランとした受話器を回転させれば、即席分銅の出来上がり。
バティンが踏み込もうとするその膝に受話器が真っ直ぐ打ち付ける。
虎徹を降り上げようとすれば右肘を狙い打った。
「バティン様を封じるには、僕が預言による『神速』で瞬速の発動前に攻撃するしかない。
攻撃の先読み…。おみねさんの精神が戦闘の素人で良かった…。」
「…邪魔をするな!私は勇(いさみ)様に必ず本物の虎徹を渡す!」