オフィスビルの9階のフロア全てが原宗時の会社である。
会社は占いサイト意外にも幾つかネットビジネス関連を手がけているそうだが、私には詳しいことはわからない。
ただ、IT企業というのは少ない社員が快適に過ごせる待遇のようだ。
シャワールームに仮眠室。それは原社長の自宅のようにも私は見えた。
「き、北御門さん?どうしてここに?」
「…着信を残してもメールを送信しても全然返事がないんですもの…。
一心不乱にお仕事されてるんだろうなって…。
ご自宅じゃなく、こっちに向かって正解でしたわ。
差し入れをお持ち致しましたわ。
元気の出る食べ物ばかりですわよ。」
私の監視及び保護対象者の北御門瞳様は、それは嬉しそうに原宗時と話していた。
つい1ヶ月前に虎徹を売りつけられそうになり、困惑していた女性とは思えない。
困惑しているのは原の方かと思える。北御門様に会えた喜び以上に苛立ち?いや焦りのような…。
これは私ならではの過度の警戒ならいいのですが…。
「そ、それはありがとう。僕なんかの為に…。
でもどうやってここまで?
一階のセキュリティから連絡は入らなかったけど…?」
「『原社長の婚約者』と言えば二つ返事で通してくれましたわ。」
軽い冗談の様に微笑む彼女だが、その真意は「してやったり」の笑みなのは間違いない。
私も若い頃は妻のこの微笑みにやられたものだ…。
「ハハハ、その警備員は感謝状ものですね。」
「迷惑でしたでしょうか?お仕事の邪魔はしません。
せめて私のお弁当だけでも…。」
「とんでもない!一緒に食べましょう。
お心遣い嬉しいです。」
と、言いながらも奴の視線はどこか彼女を見ていない。
仕事のパソコン画面が気になっているわけでもない。
人間は隠し事をすると、その隠している場所に視線が行くものだが…。
原の視線は北御門様よりも、豪勢な手作り弁当よりも…。
その視線は仮眠室?
「煮魚に野菜の揚げ物に炊き込みご飯!どれも手間暇かかって大変だったでしょう?とても美味しいです!」
「本当ですか?何だかさっきから落ち着かない様子…。
そんなに仮眠室が気になりますか?」
ほぅ、北御門様は大した洞察力だ。立派な悪魔になれますよ。
「か、仮眠室?そ、そんな別に…。」
核心の一言で、困惑する原。そして北御門様も豹変する。
「…誰か居るんですね?しかも仮眠室だなんて…不潔!」
「違う!そっちはまだ危ない!」