張り込み捜査初日。
ほどなく日付が変わろうとする夜中、女刑事・宇都宮真樹こと大天使ウリエルは、虎徹の所有者である原宗時の帰宅を待っていた。
「あぁ~、早く帰って寝なさいよ~。
日本人は働き過ぎよ~。」
今日は満月。
未だに虎徹の正体はわからないが、妖の力が作用して刺傷事件が起きているならば、最も魔力が充足する今夜が一番危険だ。
過去の持ち主は特定のパートナーにのみその刃を向けたが、原が刀に取り憑かれて、近所や大通りで暴れる可能性が無いわけではない。
場合によれば天使の力を解放する場面もあるかもしれない。
「…遅いな~。占いサイトの社長だからって、毎日残業じゃ社長って気分でもないんじゃない?
その勤勉さは『四文字のお方』に見習ってほしいわ…。」
流石に退屈な張り込みに嫌気がさしてきた時、彼女のスマホが振動した。
「星明?丁度良かった。ねぇ、退屈だから相手してよ…。」
「それどころではありません。
バティンから報告を受けました。
北御門さんが原の所に向かってるのです!」
弟にしては珍しく緊迫した声。保護対象の北御門さんにはバティンさんが警護してるから大丈夫なんじゃないの?
「なんだ、丁度いいじゃない。
合流しようよ。
バティンさんが来るなら心強いわ。
原はまだ帰ってないけどね。
なんだ、あの二人、もう自宅に招くほど親密なんだ?」
「そうではありません。
北御門さんが向かったのは、奴のオフィスです!
IT関連の企業は会社に宿泊することが普通で設備も充実してるんです。」
「ええ~、それ、早く言ってよ!
でもバティンさんが居るなら、陰で護衛してるし安心じゃない?」
「私とバティンとの契約は北御門さんを守ることです!
その為には手段を選びません。
彼女が凄惨な場面を目撃する可能性もあります!」
「わかったわ!私も直ぐに行く!」
とは言ったものの、無許可で空飛ぶと山ほど始末書書かないといけないし、人間の部下を呼ぶにしても危険に巻き込みたくないし…と思い、弟に使いの悪魔を頼もうかと思ったら…
「お待たせしました!宇都宮刑事。」
月夜に現れた私の弟の大魔王サタン。スマホで喋りながら、夜空を飛んで(跳んで)きたみたい。
「急ぎますよ!」
とお姫様抱っこしながら、一足飛びに町を駆け抜けるから、弟相手にドキッとするじゃない!
あ~んミカエル様ごめんなさい!
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「…遅くまでお疲れさま、原さん」