「…申し訳ございません、お客様。
この様な商品は、当店ではお取り扱い致しかねます…。」
昼下がりのアジアン雑貨ティンブーに現れた、黒いスーツの男性。
ウチは骨董品の買い取りも多少やってるが、品を持ち込む客なんて殆どいないので久しぶりに驚いた。
「君はアルバイトか?
君では話にならん、責任者を出せ!」
可能な限り丁寧な応対をしたつもりだが、それでも黒スーツの男性は余を相手にしなかった。
安い時給の身分なので、もう慣れては居るが、それでも腹が立つ。
魔力を開放して有無を言わさず追い出しても良かったのだが、奈々子が帰還するまでこの店の安全を守る約束をしたからには、小さなトラブルは避けなくてはならない…。
「…かしこまりました。
上の者に相談します…。」
ほどなくカウンターに現れたのは、今日の店の責任者の北御門瞳(きたみかどひとみ)副店長だ。
「お客様、申し訳ございません。
こちらの佐田が申し上げた通り、当店は刀剣類の扱いの許可を取ってない店でごさまして…。
もしよろしければ、当店のオーナーが経営する別の店を紹介しますが…。」
北御門さんは奈々子と店長との中間くらいの年令で、仕事熱心で店長の信頼も厚い方だ。
「…いえ、この店が選ばれたのです。
刀がこの店に来ることを望んだのです。」
「…刀が…?
すみません、仰ってる意味が良く…。」
「この刀、虎徹(こてつ)は幕末に活躍した維新志士の持ち物だったのですが、動乱の時代に持ち主と離ればなれになり、ずっと主を求めいたのですよ。
私は前の持ち主からその話を聞き、真の持ち主を探してあげようと思い、刀を譲り受け、必死に探し続けたのです。
そして今日、タロットはこの店を暗示した。
今日、この店を預かる貴女こそ、幕末に生き別れた虎徹の持ち主だ!」
…馬鹿な!三文芝居にしては、もっとマシな事を言え!安いペテンにしては程度が低すぎる!
「ちょっと佐田ちん、どういうこと?みかりんが男のお客と喋ってるし?」
学生バイトの鶴見さんも興味を注ぐ。
「…タロットですか?『恋人』のカードが持ち主を引き合わせたとでも?」
「いいえ、『女帝』のカードが場所を、そして『隠者』のカードが人を特定したのですが…貴女のようですね、北御門さん…。」
「ど、どうせ私は占いオタクの寂しいアラサーですよ。
でも…。」
「佐田ちん、ヤバいよあいつ!みかりんを最初から狙った結婚詐欺師かも?」続