13年後の現在
「こんにちは~、北条学園OBチームただ今到着でーす!」
「おう、立花くんに坂口くん!待ってたぜ。」
試合が朝から行われた為、祝勝会はお昼ご飯の時間に最適だった。
場所は北条学園からほどなく近い中華料理屋、試合の後は毎年ここでお世話になるのが慣例だ。」
「今年でもう10回目か?
この時間に来たってことは、今年はコールド負けじゃあなかったみたいだな?
九回持ったか?」
「はい、最後まで戦い抜きました!」
「ほう、そりゃ上出来だ。
二点くらい取れたか?」
「さあて…試合の結果は…どうぞ、こっちです!」
OBチーム代表の坂口さんに呼ばれ、三人の違うユニフォームを着た青年達が挨拶する。
「店長!今年は遂に負けてしまいました。
いやぁ、13年前と店も店長も変わりませんね!」
深々と頭を下げるのは徳川実業OBチームの牧野、千石、氏家の三人だった。
「13年前と同じくまたあいつ一人に打たれましたよ!
やっぱり北条はあいつが入ると別チームのように生まれ変わる。」
「お、おい、それじゃまさかホントに…。」
「ええ、今年遂に『三好秋彦追悼試合』に高坂漣が参加してくれたんです!」
「…店長…長い間ご無沙汰しています…。」
「漣くんか!?」
店の暖簾をくぐった、長身痩せ身のメガネの青年。
その両手にはしっかりと赤ん坊が抱かれていた。
「…娘の蘭です。
私の妻は勿論…。」
「お久しぶりです、店長!」
「柚子葉ちゃんかい?
いやぁ、あんなに大人しかった柚子葉ちゃんが遂に漣くんを射止めたか!
こりゃあメデタイ!」
「…ホントにこの二人を連れてくるのに、こんなに時間がかかるなんてね♪」
「まり姐。今までホントにありがとうね…。
私も漣も、まり姐のおかげで秋彦さんにいい報告が出来るわ。」
「私は何もしてないわよ。
みんなの秋彦を想う気持ちに支えられて…。」
柚子葉は秋彦が好きだった。
漣も柚子葉が好きだった。
しかし、三人の恋に答えが出ることはなかった。
彼らが三年生の夏、三好秋彦はある雨の夜にバイクの事故が原因で他界した。
それから二年後、奪われた若い命を哀しみ、北条学園野球部と徳川実業野球部の呼びかけでOB戦が行われるようになった。勿論、姉の真理亜の母校である聖バーバラ女学院も、奉仕活動の一環として協力している。
しかし今まで、秋彦に最も近かった漣と柚子葉は参加しなかった。続