「あぁ~、惜しい!」
「もうちょっとだったのにねぇ。」
真理亜が放ったライト線ギリギリの弾丸ライナーはファールの判定になった。
徳川実業は命拾いしたと大きく息をつき、北条学園は真理亜の底知れぬ身体能力に歓喜し、一気に押せ押せムードになる。
ベンチの部員だけでなく、ライトフェンス越しに応援する高坂漣ファンクラブの女子達のハートも掴んだ。
加納弥生はレフト側で応援してるので、ファンクラブの女子達は一人残った篠山五月に話しかける。
「…あのう…先輩。三好くんのお姉さんの名前って、マリアさん…でしたっけ?」
それはファンクラブ女子達から一緒に声を揃えて応援したいとの申し出だった。
ヘルメットを被り、聖バーバラ女学院の真っ白なワンピースの制服を着て裸足でバッターボックスに構える少女。
しかも男子部員に気後れすることなく、目一杯バットを長く、立てて構える姿は一年生女子をも魅了した。
「ええ、聖バーバラ女学院一番の名物生徒。『お願い!マリア様』の三好真理亜、聖書研究会所属よ♪良かったら文化祭に来てね~♪」
「いいんですかぁ~?
行きます、行きます!」
(う~ん、こりゃあ本気で『懺悔室パブ』を却下しないと大惨事になりそうね。)
応援は盛り上がるが、当人達は互いに疲弊してた。
(不味いですね…。今のがファールになったのは不運…。
秋彦のお姉さんにこれ以上のアドバイスはない…。)
(俺の渾身のストレートを軽々運びやがって…。確かに次があの高坂って一年じゃなきゃ敬遠したいぜ…。)
(牧野!こうなったら気力の勝負だ!好きな球を投げたい所に投げろ!
お前の敵はお前自身なんだ!)
(ちょっと高坂くん、どうしよ~?え?もう一回同じことやれって無理よ!)
盗塁覚悟で大きく振りかぶって投球モーションに入る牧野!
投げた球は一番得意なスライダーだった。
高坂漣は真理亜にさっきと同じ、外角低めストレートを狙えとサインを出した。
スライダーはストレートより遅く、カーブより速い。
球の変化量はカーブより落差はない。
スイングに確実な自信がある野球経験者には、手元で曲がって芯を外し、凡打の山を築く牧野のスライダーは厄介だった。
だが、野球未経験の真理亜に牧野のスライダーは打ち頃のスピードで、球が曲がった分、偶然バットの真芯で捉えることが出来た!
「キン!」
「抜けた~!」
センターオーバーの同点二塁打。
5-5
続