「タイム!」
間を取ったのは北条学園からだった。
ネクストバッターズサークルで素振りする高坂漣が、三好真理亜に作戦を授ける為だ。
対する徳川実業バッテリーも、タイムがかかったのを確認して、内野陣ともどもマウンドに集まる。
「牧野、また悪いクセが出やがったな!
バッターが女子高生だから意識し過ぎてカーブがすっぽ抜けやがって…。」
捕手千石からのキツい叱責。
集まった内野も同調する。
「その前の悪送球といい、牧野は土壇場でメンタルが弱いんだよ!
ウチが県内だけでなく、全国でも常勝を積み重ねるにはもう1ランク上を目指さないと…。」
「わかってる!わかってるよ!
デッドボールにならなくて良かったよ…。」
「あぁ、ユニフォームも来てない女子に当てるわけにはいかないよ…。」
「じゃあ、敬遠するか?」
「ええ?」
千石からの驚きの提案。
これは勿論、ピンチになると気持ちが逃げ腰になる牧野にハッパをかける為だ。
「あの姉さん相手に投げにくいなら、敬遠すればいい。
でも次打者はあの高坂って一年だ。
どうする?二本塁打を含む三本打たれてるリベンジをしたいって、理由なら一応格好はつくぜ。」
「おい、千石…。」
「牧野、俺はどっちでもいいぜ。
但し、二人とも敬遠って策はない!」
「わかったよ、千石。
野球は確率のスポーツだ。
より打ち取りやすい相手に全力を注ぐのは当然だ。
余計な邪念を捨てて、あの女子を打ち取るさ。」
「それでいい。牧野、お前は球のコントロールは一流だが、気持ちをコントロール出来れば超一流だ!
いいか!甲子園が目標じゃない!
甲子園優勝が目標なんだ!」
『おう!』
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「高坂くん、ホントに真っ直ぐがそこに来るの?」
「ええ、貴女が女子ということに気を使い、内角はないでしょう。
外角低めに一番速い球を必ず投げて来ます!
チャンスは一回限り。
牧野さんの肘が見えたら、一、二の、三のタイミングで打ってください!変化球は気にしないで。」
「うん!肘が見えたら一、二の、三ね」
「プレイ!」
(牧野!いいな!)
(ああ!カーブのすっぽ抜けで腰が引けたなら外角の速球は届かないはず)
(肘が見えたら…一、二の…三!
ホントに来た!」
「カキン!」
ドンピシャのタイミングで振り抜いた真理亜!
ライト線を鋭いライナーが襲い…。
「ファール!」
「うぉ!ヤバ!」
「…敬遠しよか?」