「姉ちゃん、こっちのベンチにまで来て何してんだよ!」
「何って代打よ…!
秋彦はよくやったわ。
後は任せて。」
「任せてじゃないだろ!
部員でもないし、ましてやウチの生徒でもないし、姉ちゃんは女だろ!
いくら公式戦じゃなくても、俺の代打はまだ他に部員が居るから、大人しく応援だけしててよ!」
「昔は女の私に毎日泣きついて苛めっ子の仇討ちをお願いしてたのは誰かな~?
今まで散々助けてあげたのに、お姉ちゃん悲しいわ~。」
破天荒な姉の行動に秋彦はいつも諦めがちだが、今回は流石に抵抗した。
ルールを楯に説得する秋彦だが、野球という自分の聖域に家族を入れたくない思いからだ。
聖バーバラの制服を着た女性が打席に立つと言うだけで驚きだが、部員達が驚いたのは…。
「おい、三好。お姉さんに泣きついたって…。まさかこのお姉さんもお前と同じ…。」
「ええ、柔術の腕と基礎体力は僕と比べものになりません。」
「論より証拠ね。ちょと借りるわよ。」
と、バットとボールを取り、打席に勝手に入った。
流石に相手の徳川実業のナインも驚き…。
「あ、あの聖バーバラの生徒さん…。
俺達の試合に参加したい気持ちは嬉しいけど…。
いや、それより貴女が持ってるのはマスコットバット…。」
と、打席の一番近くで見守る千石は声をかけたが、真理亜は
「マスコットバット?ホントだ。可愛いオレンジ色ね。」
「いや、そういう意味じゃなくて…。」
「カキン!」
手にしたボールを宙に浮かせ、一人ノックを披露する真理亜。
鉛入りのマスコットバットで打った打球はオーバーフェンスどころか道路に抜ける場外ホームランだった。
「…私、ソフトボールで凡退した記憶ないのよね(ソフトボールもした記憶ないけど)」
規格外のパフォーマンスに北条学園ベンチは押せ押せムードになる。
しかし、反対する部員もいたが…
「ホッホッ、なんとも元気なお姉さんですね。三好くん。
代打を認めましょう。
勿論、徳川実業が認めればですが…。
ルールを守ることも大切ですが、どんなことをしてでも手にした勝利はまた格別な経験です。
そしてイレギュラーは起こるものです。
貴方の左手のケガのように。」
「龍造寺監督…。」
「そして三好くんが怪我をしたと知って、すぐに代わりを名乗り出た控えの部員が居たでしょうか?
野球技術以上にその気迫をこの試合で教えられなかったのは監督である私の責任です。