「はじめまして、秋彦くんのお姉さん。
お話以上に強烈なお方だ…。
お聞きしたいことは山ほどありますが、まずは貴女の代打を徳川実業に認めさせなければ…。
龍造寺監督、坂口主将、僕に任せてくれませんか?」
「お前の活躍のおかげで接戦が出来てる。
俺達に断る資格はないさ。
どんな駆け引きをするか知らんがお前なら大丈夫だろ?
龍造寺監督、自分からもお願いします。」
この試合で全く指示を出さない初老の監督に、主将の坂口が頭を下げる。
その姿を見て、部員全員が姉の真理亜の代打を願った。
「ホッホッ、高坂くん。
大丈夫ですよ。きっと相手側も了承してくださるでしょう…。」
「…ありがとうございます…。」
「高坂くん、君には言葉では言えないほど感謝してるわ…。
…でも…これからは、秋彦とエースの座を争うライバルになるのかしら?」
「意地悪ですね…。
今日、初めてキャッチャーとして試合に出てわかりましたよ…。
ずっと秋彦くんの球を受けたいと思いました。
…相手の千石さんが僕の球を受けてみたいと言った気持ちがわかりましたよ…。
だから…キャッチャー同士交渉してみますよ。
上手くいけば、デートしてくれませんか?
勿論、聖バーバラの制服ではなく貴女の最上の私服で…。」
「こら!それは試合に勝ったら、でしょう?」
「了解。
楽しみにしていますよ。」
と、振り向きもせずにベンチを出て徳川実業側に向かう高坂漣。
その姿を見て、千石もベンチを出る。
「練習試合ってのは、学校に届け出て成立してんだ。
部外者が怪我しても責任取れんぞ。」
「千石さん、貴方なら彼女がただ者でないことはわかってるでしょう?
それに『部外者』がウチのチームに入りたいと言ったのは貴方が最初ですよ?」
「そうだったな…。
自らマウンドを降りたお前の次のピッチャーに抑えられてたら文句は言えねえな。
わかった。
こっちも代打を認めよう。但し、『選手』と同等とみなす…。」
「おい、千石…!何で俺が女相手に…。」
「うるせっ!牧野。
お前は俺のミット目掛けて打ち取ることだけ考えてろ!」
(牧野が最後の最後にエラーしなきゃ、ゲームセットだったのに。ギリギリで気持ちが弱いあいつには、うってつけのハプニングだ。『野球坊っちゃん』のあいつは、雨とか味方のエラーで突然崩れるからな。
『突然現れた部外者の女子高生』
これで牧野はまた強くなる。
何より次打者は高坂だ」