オーバーフェンス25 試合編19 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

身体の近くのピッチャー返しを、グラブのない素手の左手でキャチした秋彦。

しかもそのまま一塁に送球し、飛び出したランナーは戻れず、ライナーゲッツーが成立した。

愕然とする徳川実業。
打った氏家は膝から崩れた…。

「何なんだ!ここの一年は…!」

沈黙する徳川実業と対照的に、歓喜する北条学園ベンチ。
しかし、秋彦に駆け寄る高坂と、フェンス越しに絶叫する姉の真理亜が、一瞬で喜びムードを消した。

「素手で掴むなんて無茶を…!
いくら君のフィジカルが人間離れしてるとはいえ…。
左手を見せてみろ!」

半ば強引に秋彦の左手首を掴む高坂漣。
その瞬間、秋彦は苦痛に顔を歪める…。

「やはり…。
骨折してないのが奇跡ですよ…。
全く、僕よりバカな男は君が初めてですよ…。」

「へへっ、物心ついた時から親父にシゴかれてたからな…。
野球技術は漣ほどじゃないけど…、それでも人間業じゃないフィジカルでチームに貢献できるなら満足さ…。
まぁ、俺の姉ちゃんなら怪我もしてないんだろうけど…。」
「そんなことは今は関係ない!
勝負は九回裏。点差は二点!
秋彦の為に出来ることはわかってますよね?」

一年生ながらチーム全員に呼びかける高坂。
それは俺の役目と言わんばかりに、キャプテンの坂口が高坂の言葉の後に続く。

「いいか、打順は五番の俺からだ。九番の秋彦はもうバットも振れないほど手を傷めてる!
絶対に俺が塁に出るから、秋彦に打順が回る前にサヨナラで決めるぞ!」

『おお!』

(一年生二人のおかげで、あの徳川実業と最後まで接戦が出来てる…。
去年まではそれより劣る高校にコールド負けしてた俺達が…。)

「キン!」

と、やや芯を外した音とともに、五番キャプテン坂口の打球は、三遊間とレフトの間にフラフラと上がった。

見守るファンクラブの女子と聖バーバラの篠山五月も声を合わせて

「落ちろ~!」

と叫ぶ。
念が通じたのか、丁度誰もが届かない位置に落ちるテキサスヒットとなり、執念の出塁。
しかし、続く六番、七番は徳川実業の牧野が踏ん張り、ランナー坂口は釘付け。
最後の八番打者がピッチャーゴロに倒れ、ゲームセットかと思われた時、牧野の二塁送球が逸れ、セーフとなった。

二死一、二塁で打者は秋彦。次は高坂。
「仕方ない、秋彦に代打だ!」

「でも誰が?」

と球場全体が思った時

「代打あたし!!負傷の弟に代わって、姉のあたしが打つわ!」