「いらっしゃいませ。
ご注文は?」
「15年前のペパーミントティーと…。
御子神さんはお手すきでしょうか…?
お久しぶりですわね♪ブロッケンさん。」
「お、お久しぶりです、奥様。
テレビ観てますよ!」
「あら、ありがとうございます。
『こちら側』でも人気で何よりですわ…。」
「お待たせ致しました。お久しぶりです、奥様。」
「お久しぶりですわ。
御子神さん…。
今日という日をどれほど待ちのぞんだか…。」
「奥様、あれは私と店側の厚意ですよ。
何も本当に…。」
「いいえ、お店と御子神さんが『出世払い』を了承してくださったおかげで、返済は私の生きる希望、生き続ける希望になりました。
貴方が殺してくださった、『あいつと同じ地獄に堕ちてなるものか!』を、心の中で繰り返しましたわ。
今ではこれでも…。」
「『お母さんにしたい女優』五年連続一位でしたっけ?」
「御子神さんに『殺人依頼』をしたような私が一位なんて、とんだスキャンダルですわねぇ。
さぁ、積もる話は後にして、まずは15年前に約束しました、5000万円です。
それと、こちらが…。」
「わかりました…。
受け取らない方が、ご厚意に反するでしょう…。」
「御子神さんて、ホントに15年前と変わりませんね。
全く羨ましい限りですわ。」
「…ええ、お恥ずかしながら、まだ人間の端くれです。
これでまた、妖と機械の身体に近づきますが…。」
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女優を夢見て上京した私。
オーディションを前に、バイト先の先輩から「カリスマ美容師」を紹介された。
予約がいっぱいだったのに、彼は休日に私を自室に招き、カットしてくれた。
田舎者で世間知らずな当時の私は、疑うこともせずに二つ返事でドアをノックした。
カット代金の代わりに「私」を要求した彼。
何もかもが初めての…夢の様な体験でした…。
この後、彼の彼女が部屋を訪れたことも、その彼女さんが私のバイト先の先輩だったことも…。
罵詈雑言を浴びせられ、泣きながら彼の部屋を飛び出した私。
お酒を飲み、終電の先頭車両にキスすることを願った。
そして御子神さんは現れました。
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「それは酷い話ですね…。
まずはペパーミントティーを…落ち着きますよ…。」
「あ、ありがとうございます。」
「貴女はきっと大物になります…。」
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今日は返済だけでなく、『もう一人』の依頼に来ました。
さて、あの男か女どっち?完