オーバーフェンス23 試合編17 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
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九回表。
無死一塁。
打席は七番の下間。
キャッチャーのポジションについた高坂は、マウンド上の三好秋彦に、初級は…。

「ストライク!」

「いいぞ~!」

胸元から急激に曲がるスライダーを要求した。
左打者である下間にとって、秋彦の左のサイドスローは、背中越しの死角からボールが出てくるようだった。

「ボール。」

二球目はアウトローにストレート。
速球のスピードは先発の立花よりも遅いのは明らかだった。
しかし、変則フォームとスライダーとのコンビネーションが、球速以上に秋彦の球を速く見せるのだった。

ベンチの千石と徳川実業の監督はある仮説を立てた。

「やはり、この九回だけを凌ぐ程度の投手ということか…?
先頭の下間に対して左vs左をぶつけるのが目的のようだな…。
経験の浅い一年なら、必死に投球フォームとスライダーだけを練習してきたか…。」

得点は5-3。徳川実業にはリードしている余裕があった。
しかし、試合に出ている選手には、レギュラーを奪われまいと、余裕はなかった。

三球目。
秋彦のスライダーはやや真ん中よりに流れ、タイミングさえ合えば、オーバーフェンスしたかもしれない。

しかし、打者の下間は、ベンチの指示通り送りバントをした。

一塁、三塁が投球と同時にチャージを仕掛けてくる。
打球はやや、三塁よりに転がったが、捕手の高坂は、サードの坂口主将を制止し、

「任せて、セカンッ!」

と、左手でマスクを飛ばし、転がるボールを右手で掴むと同時に二塁に投げた。

「アウト!」

進塁を阻止する高坂の強肩は、外野手や投手としてだけでなく、ナインを統率する扇の要としても発揮された。

「いいぞ~!二塁で刺しやがったぜあいつ~!」

「高坂くん凄~い!」

北条学園側は一気に盛り上がる。

(秋彦、あと二人よ、頑張りなさい!)

真理亜はただ祈るような気持ちで観戦し、応援の声も出なかった。

ファンクラブが盛り上がるなか、朝倉柚子葉は

「三好くん、あと二人よ~!頑張って~!」

この試合で一番の声を上げた。
高坂漣に熱を上げる篠山五月はほっこりと安堵し、姉の真理亜と、親友の高坂は小さな苛立ちを覚えた。

「あ、朝倉さん…。今のは僕のファインプレイじゃ…?」

(あらあら、秋彦もやるわね。試合後が楽しみだわ…。)

一死一塁。
3ランホームランを打ってる八番氏家が、レフト側の加納弥生の声援を受け、打席に入る。