六回の裏。
徳川実業5-3北条学園。
二塁上の高坂漣は三塁まで進み、四番の立川に四球を与えたが、後続を打ち取り、追加点を許さなかった。
本塁へ帰還出来なかった高坂漣は、1点しか入らなったことよりも、徳川実業がなりふり構わぬ姿勢を見せてきたことを危惧していた。
(不味いですね…。あの立川先輩への四球は、コントロールのいい牧野さんらしくない…。疲労が見えたとも思えませんし…。
やはり半分は敬遠だったのでしょうか?
だとするとこれは厄介ですね…。)
勝利の為には格下相手でも、使える策は何でも使う。
勝利の美学や王者のプライドよりも、勝つ事に対してどのチームよりも貪欲であった。
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七回の表。
「こいつらは二点じゃ安心出来ない。
俺が更に点差を…。」
八番氏家は、前打席の3ランホームランで気を良くして打席に臨んだが、マウンド上の高坂の速球の前になす術もなかった。
「速い…。」
最初はホームランを意識して大振りになっていたが、速さに対応する為にバットを短く持っても結果は同じだった。
「ストライクバッターアウト!」
低めのストレートをかすることも無く、空振り三振。
だったが…。
「走れライパチ!」
北条学園の捕手石倉がボールを逸らしていた。
振り逃げで慌てて一塁に走るが、石倉はボールを追いかけ、一塁に送球してアウトだった。
「あのキャッチャーまさか…?」
続く九番、一番も、捕手石倉がボールを逸らすことはあっても、出塁までには至らなかった。
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七回裏も北条学園は三者凡退に終わり、徳川実業の牧野に疲労は見えなかった。
(やはり…。力の出し所と抜き所を心得ている…。
ストレートの球速が落ち出してから、スライダーの多投が目立ちますね…。
突け入るチャンスはあるのですが…。」
8回の表。
高坂はなおも追加点を許さなかった。
四番千石との二度目の対決も、今度は三振に打ち取った。
しかし、捕手石倉はまたもボールを逸らし、今度は振り逃げで出塁させてしまった。
「すまない…、高坂。お前の足を引っ張って…。」
「石倉先輩、まさか…?」
「気にするな!お前は俺のミット目掛けて投げればいいんだ!」
「わかりました…。」
続く五番を打ち取り点差はそのままだ。
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八回の裏。
続く先頭の秋彦はセンター前ヒットを打ち、真理亜は狂喜乱舞したが、一瞬で両軍は沈黙した。
続く高坂漣を敬遠したからだ。