同点ホームランを叩き込んだ高坂漣は、寡黙にダイヤモンドを一周した第一打席と打って代わり、大袈裟なガッツポーズと雄叫びで両軍にアピールした。
しかも往年の秋山幸二宜しく、バク転でホームを踏んだから徳川実業のイライラはピークに達していた。
ここまでは完全に高坂の為の試合であったが、この過剰なパフォーマンスと挑発が徳川実業を本気にさせた。
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「う~ん、このまま何でもかんでもイケメソの思うがままじゃ詰まんない試合ね。」
「何言ってんのよ真理亜!イケメソは正義!大活躍に異義なしよ!」
「いや、五月の気持ちもわかるけど、負けそうな試合に対してイケメソが奇跡を起こすから面白いんであって…。」
「ねぇ、徳川実業って、やっぱり私達を見てるから浮き足だってるのかな?」
「半分は正解ね。
厳密には私達の制服、『お嬢様学校』って概念が彼らの実力を削ってるわね。」
「真理亜は厳しいな~。
じゃあ、せめてものお詫びに弥生でもあげる?」
「つまらない物ですが、私達の誠意ということで、それで手を打ちますか(笑)。」
「ねぇ、私がどうしたんですか?」
会話の意味を理解してない加納弥生。
真理亜と五月は心意を隠した笑みを浮かべ…。
「弥生、貴女はレフト側で徳川実業の応援しなさい!
状況はそれで好転するわ!」
「どうして私だけ相手チームを応援しないといけないんですか~?」
「思春期の男に過剰なモヤモヤは不健康極まりないわ。
いっそ本懐を遂げてやるべきよ!」
「そうよ、弥生。真理亜の言うとおりだわ!徳川実業を本気モードを出せるかは、弥生の情熱にかかってるのよ!」
「よくわかりませんが、まるで私が王子の呪いを解くお姫様ってことですか?」
「間違ってないわね。あの高坂くんは王子っていうより、魔王ってタイプだもんね。そこがいいんだけど。彼を見てると色々疼いてくるわ…。」
「じゃあ、私、頑張って徳川実業の選手が本気を出せるように応援してきますね。」
「健闘を祈るわ。仮に選手達が違うモノを出しても…。」
「五月!弥生にはまだわかんないネタやらないで!って言ってるでしょ!」
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こんな聖バーバラ女子のやり取りを知ってか知らずか、4回の表は徳川実業のチャンスだった。
北条のエース立花は、徳川実業の四番千石と勝負し切れず歩かせ、続く打者にヒットと犠打で1死二、三塁となった。
迎える打者は七番サードの下間くんだ。続