「レフト!センター!」
一回の表。徳川実業の攻撃。
1死一・二塁からの四番の一振りは、乾いた金属バットの音と共に、打球は空を裂いた。
『入れー!』
と叫ぶ徳川実業の三塁側ベンチ。
『入るなー!』
と叫ぶ北条学園の一塁側ベンチと、ライトフェンス越しに見守る女生徒の一団。
少女達の祈りが通じたのか、打球は失速し、
「ガツン」
という鈍い音を出し、フェンスを直撃した。
「ちぃ、オーバーフェンスは無理だったか。」
四番千石くんのタイムリー二塁打。
徳川実業2-0北条学園
「ええ、なによあれー。高坂くんなら捕ってたよねー。」
「そうだよねー。
高坂くんくらい守備の上手い外野手が三人揃えばいいのにねー。」
「てか、高坂くんがセンター守れば良くない?」
「そうよねー。」
身びいきしまくりの高坂ファンクラブの面々だが結局、
「でも、ライトって客席から一番近い所で守ってるから、まっ、いいか。監督のファンサービスだよ、きっと。」
で落ち着いた。
中身があるような無い様な会話が続く中、北条学園の投手立花は、相手の五番打者に四球を与えた。
「…いけませんね…。
これなら寧ろ、3ランホームランを打たれた方が気持ちが切り替え出来たというもの…。
守備の時間が長引けば、攻守に集中力を欠きます…。」
高坂漣は、自分達がまだ相手の送りバントでしかアウトを取れてないことに不安を憶えた。
「皆が『だから王者徳川実業は強い』と思い込まなければいいのですが…。」
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「カキーン!」
「ライト!」
続く六番の打球はその高坂の下へ。
「しめた!」
「キャ~、高坂くんの所に来たわ!」
飛球を簡単にキャッチする高坂。これで二死。
だが…。
二塁ランナーの千石はタッチアップで三塁に向かう。
「行かせませんよ…。
『イチロー流レーザービーム!(仮)』」
阻止したのは高坂漣の鉄砲肩だった。
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
「ば、馬鹿な…!俺が刺されるだと…?あのライトの眼鏡野郎…!何て肩だ…。」
「キャ~!高坂くん素敵~!一人ダブルプレイ完成よー!!」
まるで優勝したかの様なファンクラブの騒ぎよう。
この瞬間は聖バーバラの制服という目の上のタンコブも忘れていた。
「これが僕がライトを守る理由ですよ。進塁はさせません。」
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一回の裏
一番高坂は二球目を振り抜き、軽くオーバーフェンスした
2-1