「結婚しても恋人の様に…って理想的な夫婦ですね!」
「子供の立場からしたら少しは落ち着けよ~って感じだよ♪」
高野さんが何も知らないことをいいことに、一樹はあずさを旦那にぞっこんの母親ということをでっち上げた。
「か、一樹!大人をからかうんじゃありません!」
一樹によって改めて認識させられた旦那の存在。
今更ながらに思うのはあずさは一児の母であり、「人の女」であったことだ。
もし、夫婦仲が良かったまま、俺が一樹の家庭教師と出会って居れば…と考えた所で過ぎた時間は戻らない。
一樹は俺とあずさに罪悪感を植え付けるのが目的か?
(それだけじゃないよ。焦ってボロを出せば、このお嬢さんが『証人』になりますよ。)
悪魔ゼパルが釘を刺してくれなければ、俺はこの空間に耐えられ無かったかもしれない。
あずさ、一樹、そして高野さんとゼパルも含めて、俺の「情」から生まれた関係者達だった。
だからこそ俺は高野さんに危害が及ぶ事以上に、高野さんに俺の人格を疑われることを恐れたのかもしれない。
(いやいや、このお嬢さん=世間の間違いじゃないのかい?
道長、ここを耐え切れば必ず好転する。)
姿を消し、直接心に届く声で会話にフォローしてくれるゼパル。
頼りなさは払拭出来なかったが、今は居てほしいと切に願い、彼と契約して良かったと思う。
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「ごめんなさい、妹が車でこの付近に居るんだって。
迎えに来て貰うわ。
ありがとうございました。」
携帯を操作しながら慌ただしく席を立つ高野さん。
そして俺達も解散となった。
勿論、真壁母子は何事も無かった様に二人で帰宅した。全員が仮面を被り通した結果だった。
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アパートに着いたころ、高野さんからメールが来てた。
「良くわからない者が迂闊に言えませんが、一人で悩まないでくださいね。」
「違和感を感じたとしか思えませんね。」
「無理もない、あの雰囲気ならな…。しかし、ゼパル。好転とは何だ?」
「すぐわかるよ、道長。」
それは本当に「すぐ」だった。
朝日が昇りだすと、アパートをノックする音で俺は起こされると…。
「…来ちゃった…。」
二つのカバンに荷物を詰めたあずさが、一樹のプレッシャーに耐えきれず家出した。
不気味なほどゼパルの予言通りで、「アレ」をプレゼントとするには最高のタイミングだった。
「好きなだけここに居ろよ。」
の言葉とともに合鍵を渡した。