あずさからの突然の電話。
困惑しながらも俺に伝えてきた内容はこうだ。
「一樹が学校から帰るなり、『塾に行きたくない』って駄々をこねて。理由を尋ねても『畠山先生にしか話したくない。先生に会いたい。』と繰り返すばかりで…。ミッチー、私どうしたらいいの?昨日のメールと無関係かもしれないけど…。あの子が怖いの!大学が済んだら直ぐに来て!
…私も会いたい…。」
学校でも塾でも、そして俺の教え子としても優秀な一樹くんが、急に塾を嫌がる理由がわからない。
やはり俺達の関係に気付いてるからこその行動か?
読めない…。
だが、俺にとっての今一番の恐怖は、覚悟を決めているあずさの『強さ』だった。
「ミッチー、もしもの時は…私と二人で…ね…。貴方の愛さえあれば私は何も要らないから!
お願い!直ぐに来て!」
我が子の心配は自分の心配、または俺との関係の心配だった。
「ハハハ、道長が別れたがるわけだ。」
俺の契約悪魔ゼパルはケタケタと笑い声をあげる。
苛立つ気持ちを抑えながら、今は現状への対処で原因究明は後だ。
「そうだな。君に断る理由はない。
この状況を利用して奥さんと別れる切欠に好転させるといい。」
「それをするのがお前の役目だろゼパル!」
「わかってるよ。ソロモンNo.16『破局の悪魔』は依頼内容を完遂させていただきます。」
俺はこの時、ゼパルが悪魔と呼ばれるのを嫌がる事を忘れていた。
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「一樹!畠山先生が見えましたよ。」
あずさに案内され、一樹くんの部屋に入る。
彼はベットに寝ていた。
「風邪ってわけでもなさそうだな?
どうした?
あんまりお母さんを困らせるなよ?」
(君が言うなよ)
姿を消したゼパルが俺に話しかける。
「畠山先生、来てくれたんだ…。ありがとう。
もう塾なんて嫌だ。
好きな人が居たんだけど…幻滅したんだ…ずっとみんなで仲良くしたかっただけなのに…。僕ね、もうどうしていいか…。」
なんだ、男子中学生のコイバナか!
一安心だ。隣であずさも、あらあらと言いながら安堵してるのがわかる。
「か、母さん、ここからは男同士で…。」
「はいはい。畠山先生はホントにいいお兄さんね。じゃ、母さん買い物に行くわ。」
家を出た母親の姿を確認した途端に彼の態度が豹変した。
「…ホントに…大好きなのに…。」
「俺も君くらいの歳には…。」
「ねぇ先生、母さんにしたみたいに僕にもキスしてよ」