俺は困惑するあずさに対して、「落ち着け」としか言えなかった。
一樹くんが母親であるあずさに対して送信した「ばらすよ」とのメール。
勿論、俺達の関係以外のことを言っている可能性もあるが、あまりにそれは考えにくい。
目的は何だ?
母親をまっとうな道を歩ませ、母の愛を取り戻すことか?
ならば回りくどくメールなんか打たず、同じ家で暮らしてるのだから、直接話せばいい。
俺は直感的に、息子としての正義感や、思春期の少年らしい率直さを感じられなかった。
いや、そもそも俺とあずさは何を以て「バレていない。」なんて思えていたのだろうか?
あずさは元から美しい女性だった。
しかし、今のあずさはより一層美しくなった。それは俺と身体を重ねるからに違いない。
事実、着る服も化粧も出会った頃より明らかに変化している。
途端に肉欲に溺れていた自分が恥ずかしくなる。
だからこそ俺は悪魔と契約してでも、この罪を清算したいのに…。
付け加えて俺はあずさに
「こっちからは何も言うな。」
と、
「一樹くんには可能な限り直接会話をしろ。メールは証拠が残る。」と伝えておいた。
「…随分と頭が回るんだねぇ?
それは愛する奥様の為かい?
それとも自己保身かい?」
アパートに着いても気持ちは休まらず、重苦しい雰囲気の中、ゼパルは姿を表して俺に質問した。
「どっちでもない!俺はみんなに正しい道を進んでほしいんだ!」
と、言ってしまってから後悔した。
「ハハハ、君が言うなよ!他人の奥さんを何度も抱いた君がさ♪」
「うるせ!わかってるよ!」
「他人の悪意には敏感な癖に、自分だけは許されると思っている。
人間なんてそんなものだよね。
僕と契約したストーカー女達は加害者のクセに被害者ぶる能力だけは秀逸だったよ。」
「お、俺は…。」
「わかってる。罪悪感があるだけ道長はまだマシだよ。だから君とのミッションはまだ楽しい。」
「仕事を楽しむ気持ちがあるなら、アイデアを出せ!その為に契約した悪魔だろ?」
「僕は『破局の悪魔』であって、『家庭円満』の悪魔じゃない。
親子の問題はソーシャルワーカーか弁護士の出番かい?
とにかく!君があの奥さんと仲違いするのは今は得策じゃないね。
坊やの意図がわかるまで連携を取るがいい。」
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翌日は大学の講義があり、終わった後に家に招かれた。
彼は塾に行く日なので、俺の家庭教師の予定はない。
そう、なかったはずなのに…。