「畠山先生、何故かここの枠だけ、足し算されなくて…。
何度も先生からエクセルを教えて頂いたのに…。」
「あぁ、どうやら計算式が壊れてますね…。
ここのセルは計算結果が反映される場所ですので、数値を入力してはいけません…。」
「ありがとうございます。やっぱり畠山先生は頼りになりますわ。
二人きりで教えて頂く為に一樹を外出させた甲斐がありましたわ♪」
「お、お母さん…。」
「…一樹が帰ってくるまでに…先生自身をもっと知りたいですわ…。」
「お母さん…それはまさか…?」
「先生の目には私はどう見えてますか?
ただの教え子の母親でしょうか?
それとも…。」
「貴女は魅力的な女性です。少なくとも初めてお会いした時から私の目にはそう見えます…。」
「…証明して…。一樹が帰ってくるまで…。」
「お母さん…。」
「今だけはあずさって呼んでくださいませ…。」
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「成り行きはわかりました。
しかし、8ヶ月に及ぶ情事を清算したい気持ちはわかりますが、貴方が死を選ぶほどのことでしょうか?
『円満』とまではいかなくとも、双方納得の上での別離は不可能なのでしょうか?」
俺は御子神と名乗る男に事情を話した。
全ては俺自身をこの男に殺して貰う為だ。
責任は俺にある。
一線を越えた関係はもう元に戻らない。
罪のないご主人や将来ある息子の一樹くんに迷惑をかけれない。
「…俺は『作法』を心得ているつもりでした。
家庭教師仲間には似たような話も聞いてましたし、大学には教授の推薦を貰う為に同じ様なことをする学生も居ました。
そこで常々聞かされてたのは『不適切な関係に溺れる人間は三種類ある』
地位や財産を求める者
肉欲を求める者
そして…
愛を求める者
俺は理解していた。
受け取った物を返しても惜しくないし、何度行為を繰り返しても頭は割り切ってたつもりだった。
いつでもたった一言で終わりに出来るつもりだったんだ!
なのに…!」
いつしか俺は声を荒らげていた。
しかし、他の客も店員も気にせず自分のペットを介した歓談に花を咲かせていた。
そして俺の言葉に返事したのは御子神って男ではなく…。
「あんたの意に反して、トチ狂った年増女が本気になったってわけか…?
この世に逃げ場が無くなれば『死』に逃げ場を求めるのか?
やめときな!御子神、俺は降りるぜ!ゼパルの旦那にでも相談しな!」
「マ、マルチーズが喋った!?」続