一年前
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「畠山 道長(はたけやま みちなが)くん、W大の文学部三回生…と。
大学もルックスも問題なしね♪
宜しくお願いします。
ほら、先生に挨拶なさい。」
「真壁 一樹(まかべかずき)です。
先生、宜しくお願いします。」
出会いのきっかけは家庭教師のバイト。
真壁家との繋がりは、バイト代だけのはずだった。
なのに…。
(何でえ、息子の方かよ!)
(グラシャ=ラボラス、家庭教師とは自室で間違いが起きないように、同性の教師が登録してるセンターから派遣されるのですよ。
それと、あからさまに興味を失った念話を送って来ないでください。
貴方も話を聞いてなさい!)
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二ヶ月後
「まぁ、この問題集は畠山先生の手作りなんですか?」
「はい。一樹くんの苦手な傾向だけをチョイスして僕が作成しました。」
「こんな熱心な指導してくださる先生は始めてですわ。
一樹がこんなに勉強に興味を持つなんて…。
この子ったら、先生が来ない日も先生の話ばかりしてるんですよ。
ホントに感謝してます。」
「光栄です、お母さん。
しかし、一樹くんはこの問題集の内容よりも、作成方法に興味津々みたいですけどね。」
「母さん、エクセルって、凄く面白いんだよ。
勉強が終わったら、先生のノートパソコン触らせてもらってるんだよ!」
「貴方がゲームばかりしてるより、よっぽどいいわ。」
「あぁ、お母さん安心してください。
契約内の勉強時間は厳守してますので。」
「先生、もしよかったら今度私にもエクセルを教えてくださいな。
こういうきっかけが無いとパソコンの苦手意識から開放されませんから。」
「ええ、御安いご用です。」
あの時、ノーと言っておけばは…。
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更に二ヶ月後
「あら、畠山先生!こんな町中でお会いするなんて…。
先生、今時間あります?」
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「ええ、この最新型なんて使い安いと思いますよ。
お母さんが使うノートパソコンですか?
それともまさか一樹くんにですか?」
「いいえ、私から貴方へのプレゼントよ!
これから…いろいろと便利になると思うから…。」
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そう、始まりは彼女の金払いの良さしか興味がなかったはずなのに…。
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「一樹、先生に出すお菓子が無いの。
買ってきて。」
「そんな、お母さん、僕はけっこうですから…。」
「え~何で俺が?」
「…たまにはリフレッシュが必要よ…。」