「じゃあ、ママ。入学式が始まりそうだから私、行くね。
パパ、今日はいいお天気で良かったね♪ほら、これが中学の制服だよ?」
」
「……。」
「……。」
4月になり、私は中学生になった。
通学路の桜は満開となり、新入生を祝福してくれたが、両親は私に祝いの言葉を述べることなく、私の学校とは違う桜を見ていた。
「貴方、ほら、桜が咲いてますよ。」
「サ・ク・ラ…?」
「そう、これがさ・く・らですよ。
綺麗でしょう?」
「キレイ?」
「ええ、春は桜が『綺麗』でしょう?」
車椅子を押すママは、もう私が見えていない。
心療内科に長期入院が確定したパパしか見えていない。
ママはパパを献身的に介護することに、今までにない喜びを見出だしたようです。
勿論、パパが社会生活出来なくなったのは、私が雇ったグラシャ=ラボラスさん…じゃない、カールクリラノースさんが私の日記を直接パパの脳にチャージしたからなんだけど…。
生々しくママへの暴力と、それに対する私の気持ちが書き綴られた日記は、パパのか細い精神を半永久的に壊すのには十分だったようです。
このあり得ない現象を実現させたのは、間違いなく彼が『悪魔』だった証拠です。
パパは心が壊れてしまいましたが、とても幸せそうにパパの面倒を見るママの方に私は恐怖を感じました。
「ママ…。もう…私が娘としても見えてないんだね…。」
後でカールクリラノースさんが簡単な家庭医学の本をチャージしてくれたのですが、ママに「共依存」の診断が下って投薬を始めるのは時間の問題だそうです。(本の文面をチャージされても、内容を理解するのは私次第だから万能じゃないのね…。)
「これからどうするんでい?
親戚の世話になるのかい?」
「おばあちゃんの世話にだけはならないわ!
これからのことは、これから考えるわ。」
「なぁ、お嬢ちゃんさえ良かったら…。」
「グラシャ=ラボラスさんの気遣いは嬉しいんですけど…。
私はまだ魔界には行けません!
ごめんなさい!
まずは、か、片想いの先輩に…気持ちを打ち明けてみます!」
「そっか、いい返事だ!いい女になりな、お嬢ちゃん!」
「私がいい『女』になったら興味なくすんじゃない?」
「…二度と…俺なんかと会っちゃいけねえぞ。」
「ありがとう、さようなら、私の初恋。」
完。
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「う~ん、官能小説と違って自叙伝て難しいわね♪」
制作著作・志磨子