「…うん…。パパ…もうやめて…。」
寝言か…。
この父親のDVは、夢の中のお嬢ちゃんまで蝕んでやがる…。
どこまで腐ってやがんだ…。
きっとまともに安眠出来ねえんだろうな 。
せめても俺を抱き締めて寝たいわけだ…。
本来なら、父親に感じる恐怖は母親が払拭しなきゃなんねえのに、あの母親のせいで四倍の悲劇だな…。
「ママ逃げて!」
おいおい、どんだけ怖い夢を…しゃあねぇ、悪魔ガミジンから習った夢見の魔法を…。
「う~ん。」
「キャウン!」
苦しいって、お嬢ちゃん!きつく抱き締め過ぎだ!
息が苦しくて、呪文が唱えられねぇだろ!
こりゃ良い夢を見せてやるどころじゃねぇ、ゲホッ、仕方ねぇ…。
「う~ん、おはよう!
何か素敵な朝ね~。
こんなに頭がすっきりして起きたの記憶にないよ。」
「そうか、熟睡出来たならけっこうなことだ。」
「…え?」
「おはよう!お嬢ちゃん」
「キャー!!
何で、人間の姿で一緒に寝てるんですかー!
イヤー!キャー!
変態悪魔さんは契約解除ですー!
変態行為は契約違反です!」
お嬢ちゃんは顔を真っ赤にして枕で俺を叩くが、こっちも殺人の悪魔が少女に窒息死させられたなんて、3000年の恥だし!
人間になって身体を大きくしなきゃピンチだったわけで…。
まぁ、夢見の魔法は効いたみたいだが…。
「ねぇ、起きてるの~?塾に遅れるわよ~?」
「ママよ!騒ぎ過ぎると怪しまれるわ。
早くマルチーズに戻って!」
「わかった。」
****
「じゃあ、パパ、ママ行ってきます。
この子ローリーくんは凄く躾のいい犬だから安心して!
午前の三時限終わったら真っ直ぐ帰ってくるから。」
「はい、行ってらっしゃい。
世話はママに任せて。」
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何気ない日曜の一ページ。
何の問題も無い、幸せな家庭に映るだろう。
父親はゴルフに株式投資。
母親は海外ドラマにガーデニング。
理想的な夫婦じゃねぇか?
一体誰がこの姿を見て、愛する奥さんに暴力を振るうような主人と思うだろうか?
「ローリーちゃん、お散歩行きましょうか?」
変身魔法も疲れるが、犬のフリをするのはもっと疲れる。俺は悪魔だからな。
だが収穫はあった…。
「あら、奥様、お宅のお嬢様とウチの娘達が繁華街で随分豪遊したと…。」
お嬢ちゃんが?まさか…?
「申し訳ございません。
主人の母が孫に甘く、安易にお小遣いを与えて」
姑か…。