お手洗いの個室で頭を冷やして落ち着いた…。
今の私にわかったこと。
頭の中を整理すると…。
1 グラシャ=ラボラスさんは幻ではなく、確実に存在している。
2 その彼は確実に殺人スキルを持ち合わせ、実行することに躊躇がないこと
3 そしてその能力が私の意思決定に依るということ
4 上の3つが理解出来ても、パパがママに暴力を振るう現状は何一つ改善されず、待ったの余地はないこと。
トイレから戻って自室のドアを開けると、グラシャ=ラボラスさんは人間の姿から白いマルチーズに戻ってました。
「戻ったんだ?」
「あぁ、人間の姿は魔力を消費するんでな。」
「そう、ちょっと着替えるから一旦、部屋から出て。」
「何でえ、やっぱり漏らしたのかい?」
「間に合いました!
貴方が私を怖がらせる為に服を切り裂いたからでしょう!
もう!これお気に入りだったのに!
御子神さんか、マスターに弁償してもらいますからね!」
「あぁ、あいつらはたんまり儲けてるから、喜んでお嬢ちゃんに洋服でもアクセサリーでもプレゼントしてくれるだろうさ。
あぁ、俺は気にしないから、さっさと着替えな。」
「ボコッ!」
「キャウン!痛い!動物虐待反対ー!」
「ロビンさんが帰り際に、グラシャ=ラボラスさんがセクハラ発言したら、遠慮なく蹴りあげていいよって、言ってた意味がやっとわかりました~!
12歳の私の着替えを見たがるなんて悪魔の中でも変態さんなんじゃないですか?
とにか部屋から出てください。」
やっとグラシャ=ラボラスさんを部屋から出し、パジャマに着替える。
切り裂かれた服は残念だけど、捨てる気は無い。
だってこれは私が悪魔に出会った何よりの証拠…。
芸能人のサインとは比べ物にならないわ…。
「…どうぞ、入って…。」
「春とはいえ、まだ夜は寒い。
すまんが毛布をくれ。
カーペットよりフローリングは余計に冷てえな。」
「何言ってんのよ!ほら、おいでよ。」
「おいおい、お嬢ちゃん…?」
「私に怖い思いさせた責任取ってください!
一緒に寝てよ…。」
「やれやれ、どうせ抱きまくらかぬいぐるみ扱いだなぁ?」
「うん、良くわかってるじゃない。
おやすみ。
明日は日曜だけど塾は早いの。
早く寝よう。」
(お嬢ちゃん…。俺が『実行』しなければいつまでも傍に居れるが、俺は『慰め』の悪魔じゃねぇ。何より階下の連中は予断を許さねえ状況だしな。)