私が雇った「殺し屋」様は吠えた。
マルチーズらしく、高く響く声で「キャン!キャン!」と吠え続けた。
私は魂を奪われる可能性をも視野に入れたのに、「殺人の悪魔」様は外見以上でも以下でもなく、ただ吠えた。
キャン!キャン!と。
「彼」は人間の言葉を解するが、「標的」であるパパの眼前で
「ちょっと、それじゃただの犬じゃないですか!殺し屋らしい所見せてくださいよ?契約分の仕事はしてください!」
とは勿論、言えなかったです。
しかし、効果はありました。
普段は冷静なパパも
「そ、その犬を黙らせないか!
近所迷惑だ!」
と私に向かって大声を出しました。
「丁度いいじゃない!ママに酷いことするパパの姿を…。」
と、言いかけた所で
「パシーン!」
生まれて初めて頬を叩かれた。
相手はいつもママに暴力を振るうパパじゃなくて、その被害者のママだった。
「パパに謝りなさい!私以上に貴女のことを大切に育ててるパパの気持ちを理解なさい!」
「何で?
私はママを守りたいのに、何でそのママに叩かれなきゃいけないの?
みんな大嫌い!」
****
私の部屋
「もう!貴方ホントに殺し屋?
人間の言葉を話すから悪魔かもしれないけど、殺人スキルはあるの?」
私は両親への苛立ちをグラシャ=ラボラスさんにぶつけてしまった。
「目的の半分は果たしたじゃねぇか。
お母さんを守って、父親の暴力を止めただろう?」
「うん、確かにそうだけど…。」
「お嬢ちゃんが勇気を出して下に降りなきゃ、お嬢ちゃんはいつまでも『本当の』お母さんを知らないままだったんだぜ?」
「…うん…。パパの暴力を怖がってベットで振るえてたら、私の中のママはずっと『可哀想な被害者』だったわ。
私の頬を叩いてまでパパの言いなりなんて…。」
「知るってのはそういうことさ。
襖を開けたから『鶴の恩返し』は鶴だと認識できたのさ。」
「グラシャ=ラボラスさん、まさかわざと私に?」
「さぁね、それよりお嬢ちゃん。『杜子春』って芥川龍之介の話は知ってるかい?」
「ううん、知らないわ。
何でそんなに本に詳しいの?」
「俺はまたの名を『文学の悪魔』カールクリラノースとも言う。契約者した人間に…。
説明するより、おでこを出しな!」
言われるままに白いマルチーズとおでこをくっつけると…。
「何?昔の中国?の映像が…。」
「あらゆる本の知識を直接、脳にチャージできるのさ」