誰も本当のパパを知らない。
みんな優秀な歯医者のパパが悪いことするはずない、って思い込んでる。
おばあちゃんも、近所の人達も、私の先生も警察も。
でも、これが現実なんだよ。
学校では女の子を苛めた男の子は先生に叱られるのに、どうしてパパだけ許されるの?
(神様!助けてください!)
「で?お嬢ちゃんは母親が父親に殴られてるのに、ベットで布団を被るだけかい?」
私と契約した「悪魔」、言葉を話すマルチーズのグラシャ=ラボラスさんがキツイ口調で言った。
「だって…。
私がパパを止められるわけないじゃない…。
だから貴方と契約したんじゃない!」
「怖いか?」
「そりゃ…怖いわよ…。」
「上出来だ。
『怖い者は怖い』
強くなるにはまず弱さを知ることだ。
よし、俺と一緒に下の階に行ってお母さんを助けに行こう!
大丈夫、ソロモンNo.25「殺人の悪魔」グラシャ=ラボラスに不可能はない。」
今の私には私よりも弱々しく見える、白いマルチーズだけが味方でした。
パパは普段は落ち着いてて、優しくて、物知りで自慢のパパです。
私を大切に育ててくれてるのは十分にわかってます。
でも、一度気に入らないことがあると、直ぐにママに爆発させます。
ママに関係ない仕事の怒りまでも、ママに向かいます。
遥か昔…もう何歳だったかも忘れたけど、一度だけパパに向かって
「ままをたたかないで!」
と言った時、パパはいつも以上にママに…。
きっと、私はその日から自室に篭るようになった。
全てが聞こえてない世界、存在しない世界と思うようになった。
でも…どこかで救いを求めていた。
だから私は「喫茶ロビンフッド」を訪ねてグラシャ=ラボラスさんと契約した。
下に向かう階段は一瞬で私の記憶をフラッシュバックさせた。
(殺してやる!
私にはグラシャ=ラボラスさんが居るんだから!)
「パパ、止めて!
ママに手を上げないで!」
「これは大人同士の話し合いだ。
お前には関係ない。
お前は医者になる勉強をしていなさい!」
「そうよ、私のことは心配しないで。お父さんは悪くないのよ。貴女はちゃんとお勉強してればいいの。
ママはバカだったから貴女はそうなっちゃ駄目よ。」
「…パパなんて大嫌い!
でも、ママの方がもっともっと大嫌い!!」
グラシャ=ラボラスさんは私の叫びに反応して飛び出した!
しかし、「犬らしく」キャンキャンと吠えるだけだった