「それでは、これで契約成立です。
グラシャ=ラボラス、任務が終了したら迎えに行きますので。
お嬢さん、お茶代は私の奢りですのでご心配なく。」
私は都市伝説を信じて、「喫茶ロビンフッド」を訪ねた。
ここに来れば願いが叶うと思ったからだ。
私を待ち受けてたのは長身にサングラスの男性と、人の言葉を話すマルチーズ。
彼らは自分達を「悪魔」と言った。
犬が言葉を話す時点でもう驚かないが、それよりも…。
「え~?御子神さんが私の『依頼』を引き受けてくれるんじゃないんですか?
まさかホントにこの犬が…。」
「お嬢ちゃんに御子神を雇うのはまだ無理だ。
あいつは一人消すのに有名スポーツ選手の年俸くらい要求するからなぁ。
ホントにお嬢ちゃんが一生タダ働きになっちまうぜ。」
「…そんな…。そんなに高額でも御子神さんに依頼される人は居るんですか?」
「あぁ、政府要人や有名企業の重役が消えてほしいと願う連中が、あいつの狙撃に札束を積むのさ。」
「グラシャ…くん、いえ、さんは私の『善行』が欲しいんですよね。
どうして私に『依頼料』に足る善行があるってわかったんですか?」
「理由は二つ。
思春期の女の子が父親を疎ましく思うのは熱病みたいなもんで珍しくない。
中には一時的に殺意を持つ子も居るだろう。
だがお嬢ちゃんの動機は『母親の為』だ。
よほど思い詰めてるのくらいわかるさ…。」
「二つ目は?」
「俺は鼻が利くんだ。
お嬢ちゃんにはそういう『匂い』がしたまでさ…。」
「あの、もし依頼しても、払えるほどの善行がなかったら?」
「魂を奪うだけさ。その魂にも『徳』が無ければ文字通り、地獄の強制労働さ!」
「そんな…。」
「俺達に安易に殺人依頼をして、自分がこの世とオサラバした奴は数えきれないさ。」
「つ、着きました。
ここが私の家です。」
「なるほど…。上っ面はいい匂いだな…。」
「ただいま。
この犬、友達から数日間の約束で預かったの!」
「ちょっと、こういうことは事前にお父さんの許可を貰いなさい!ねぇ、貴方…。」
「何事も経験だ。
お友達の迷惑にならないよう、責任持って飼うんだよ。」
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自室
「何でえ、問題無さそうな夫婦じゃねぇか?」
「私には普通に振る舞うだけよ!
バレてないとでも思ってるの?
ほら、下の階に耳を澄まして!」
「パシーン!」
「お前はいつから娘に私を蔑ろにしていいと教育した!」