「そいつぁ、厄介だな。
『事』が起きてからじゃねえと動かねぇのが『国』だからなぁ。
いつもいつも手遅れになってから重い腰を上げやがる。
だから人間は俺達みたいな奴と共存共栄しなきゃいけねえのさ。
なのに天界の奴らは理想論を人間に押し付けて…。」
「グラシャ=ラボラス、お嬢さんに不満を洩らしても仕方ありません。
依頼を承諾されるなら契約を…。」
饒舌に人間の言葉を話すマルチーズは、隣に座る御子神さんと呼ばれるサングラスの男性にたしためられた。
「お、お金は少ないけど定期預金があります!
足りない分は一生働いて返します!
だから、だからパパの暴力からママを守ってください!
このままじゃ、いつかホントにママが…。
もう、貴方達だけが頼りなんです!」
「お嬢さん、お金は確かに我々が『人間の様に』振る舞うのに必要です。
しかし、我々は貴女からもっと大切な物を頂かないといけないのです。」
マルチーズより丁寧な口調で話す御子神さんの言葉に恐怖を感じました。
さりげなく、人間でないことをカミングアウトしたよね…?
私の記憶が確かならこんな場所に喫茶店なんかなかったし…。
まさかマスターもウェイターさんもお客さんも、みんな幽霊か妖怪なの?
私、ちゃんと家に帰れるの?
店から出たら同級生がおばあちゃんになってるとかナシよ!?
「で、問題はお嬢ちゃんが『対価』を持ち合わせてるかなんだが…。」
「お、お金じゃないなら宝物とかですか?パパの実家は資産家ですが…。
あ、あと私は春から中学生になったばかりだから、女性としてのサービスとかはまだ…。」
「そっちの心配は必要ねぇ、寧ろ好都合な…。」
「グラシャ=ラボラス!
誤解を招く表現は謹んでください!
いえ、我々の対価とは依頼主の『善行』なのです。」
「善行?」
御子神さんの言葉がよくわからなかった。
善行って、電車で席譲るとか、空き缶のポイ捨てをゴミ箱に捨てるとか?
「簡単に言うなら『徳』ですね。
貴女の今までの積み上げた徳を頂けることは、我々に取って莫大な資産に相当するんですよ。」
「それには穢れなき少女の魂なんか最高さ!まぁ、元々、徳の高い少女が悪魔に殺人依頼なんかしに来ねえ。
だから俺達に取っては大型契約になるってわけだ。
巷にはあの手、この手で善良な人間を何とか引き摺り込もうと奸計を練る三流悪魔が横行してるが、ウチは優良企業さ!運が良かったな、お嬢ちゃん。」