「ホントにこんな所に喫茶店なんてあったんだ…。」
幼く無力な私にはこんな都市伝説にすがるしかなった。
覚悟を決めて「喫茶ロビンフッド」のドアを開ける。
「いらっしゃいませ。」
とマスターらしき人の優しい言葉が響くと私は「合言葉」を言った。
「8番テーブルは空いてますか?」
私の言葉を聞いたマスターは顎髭を触りながらニヤリと笑い小さく頷いた。
「テリー、8番テーブルにご案内を。
ブロッケンは彼を起こしてきて♪」
テンガロンハットが似合ってて、体格が良いウェイターさんに案内され、席に着く。
「ご注文は?」
ええと、どうしよう。
一人で喫茶店なんて入ったことないし…。
「当店は英国紅茶とペット同伴OKの店でございます。
よろしければ、お客様がお気に召すような紅茶をお持ちしましょうか?」
ウェイターさんは優しく促してくれ、私は「はい。」と頷くだけだった。
芳醇な香りが遠くから響く。
運ばれて来た美味しそうな紅茶に
「幾らですか?」
と聞きたかったけど、
「『レディーグレイ』です。
大丈夫、心配はいりませんよ。
交渉がまとまれば彼の支払いになるでしょう。」
と言って彼が離れようとした時、ブロッケンと呼ばれる、軍服とタキシードの中間みたいな服を着たもう一人のウェイターが現れる。
「彼」を連れてきたのだった。
一際目立つ長身だが、とても痩せていた。幅の細いサングラスからは表情は読み取れなかった。
そして何よりも驚いたのは小さなマルチーズを抱いていることだった。
確かにペット同伴OKの店内には、各々犬や猫を連れた女性客が紅茶と店員との会話を楽しんでいるようだった。
「Can you keep my secret ?」
「彼」からの合言葉。
この秘密を守る誓いをすれば「交渉」は始まるはずですが…。
「おう、こりゃまた幼い依頼主じゃねぇか?」
喋ったのは長身の彼でなくて…。
「マ、マルチーズが喋ったー!?」
今にもパニックで気絶しそうな私を気にする様子もなく、彼は「犬」を宥めた。
「いけません、まだ交渉前です。
全く、少女を見ると貴方はいつも…。」
「悪ぃ、悪ぃ。安心しな御子神。どうせ今の時間帯の客はもう殆ど知ってるさ。」
犬が普通に会話してる様子に冷静さを保ちながら…。
「で、お嬢さんご用件は?」
「パパを葬り去ってください!
このままじゃママが危ないんです!」
続く