「なぁ、愛ちゃん。
俺、猫が描きたい。」
始まりは唐突でした。
いえ、西九条くんはいつも前置きなしに、ぶっきらぼうに要件だけを言います。
現に今も、一切私を見ずに彫像をスケッチしながら話かけています。
こんな彼に理由を聞いても時間の無駄です。
彼には『描きたいから描きたい』以上の理由はないです。
「ご希望の猫を都合着けれるほど、猫の世界に顔は広くないです。
我が家の飼い猫だけは例外ですが。」
「大人しいか?」
「のんびり屋でお世辞にも活発とは言えないです。
デッサンモデルにされても意に介さずだと思うです。
人見知りどころか、人に興味ない猫ですので。」
「わかった、じゃぁ、明日。」
「はいです。」
「……。」
「……。」
「え~!!?」
ちょっと待つです!
うっかり承諾してしまったです!
い、家に西九条くんが…。
どうすればいいですか?
まだ早いです。
私達はあくまで芸術的趣味思考を互いに尊敬し合う創作仲間であり、それは広義の恋愛関係とは異なる友情の延長、いえ更に言うなら創作の喜びと苦しみを分かち合う戦友の様な関係です。
恵里菜や真樹ちゃんのような女友達さえ入れた事のない、私の部屋で、二人きりで過ごすような間柄ではないですー!
※里見愛はテンパると饒舌になります。
ま、待つです。
わ、私は何を不埒な創造、いえ想像をしてるですか?
西九条くんはただウチの猫をスケッチしたいだけで、それを断ることこそ、創作仲間として、戦友に対しての裏切り行為になるです。
それにそもそも、西九条くんが私の事情を考慮するはずもなく…。
「悪りぃ、そんな固まった顔して、その日都合悪かったか?」
「いえ、大丈夫です。」
「……。」
「……。」
アホですか私はー?
今のは奇跡的に西九条くんが気を使ってくれたチャンスを自分で逃したですー!
「じゃ、明日な。お疲れ。」
要件を言い終わると、私など気にせず帰っていったです…。
そうです、二人きりと思うから変に意識するです。
誰か他にもウチに来てもらえば、緊張せずに済むです。
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「ごめんなさい、明日は生徒会会議なの。」
(柳生恵里菜)
「ごめ~ん、明日はバンドメンバーとスタジオ練習の予約入れてるんだ♪
何言ってんのよ!チャンス逃しちゃ駄目!」
(宇都宮真樹)
「何?私への自慢?」
(彼氏無しキャプテン結城翔子)
…みんな薄情です…。
続