結審編1
アテネ市民の諸君、この結果について、即ち私に有罪を宣告したことについて、私が憤ってないのには多くの理由がある。
その主な理由は予期した通りだったからである。
それよりも票数が僅差であることに私自身が驚いているくらいである。
詩人メレトスに対しては私は今でも無罪放免になっていたと思う。
職人アニュトスと演説家リュコンが出現しなかったら、彼は五分の一の得票を難しく、罰金を払わされていたであろう。****
裁判官(今でいう陪審員)の人数は500人の説と、501人の説と二種ある。
ソクラテスは30票差で敗訴したとあるが、3票差で負けたとの説もあります。
しかし、ディオゲネスの報道には『281票の多数を持って』ともあり、即ち501-281だと220なので、60票差になります。
史実より、記録した弟子プラトンの「こうであってほしい」の気持ちが30票や3票の説を生んだかもしれません。
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メレトスは私に死刑を提議している。
ならば私は私の量刑に何を提議すべきか?
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当時の慣習で、判決後の量刑については原告と被告の話し合いとなってました。
まずは有罪か無罪が大事だったんですね。
量刑に合わせての投票じゃないのが驚きです。
「有罪と思うけど死んでほしくない」なんて陪審員の意見は通らないんですね。
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アテネ市民の諸君よ、いやしくも賞罰が真に当然の評定を受けるべきであるならば、何か私にふさわしい者でなくてはならない。
諸君に忠告を与え続けた貧しき功労者には閑暇が必要なのである。
私はオリンピア(オリンピック)で乗馬や馬車で勝利を得た者よりも、プリュタネイオンでの食事がふさわしい。
勝利者は栄誉によりその権利を欲するが、貧しき老人は食事による栄養を欲するからである。
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はい、普通に読めば???ですよね(笑)。ソクラテスは自分の刑罰に対して、プリュタネイオンという、今でいう年金保養施設に入れてくれ、と提案したのです。
国家への功労者は(凱旋将軍や競技の勝利者)が会議場近くのプリュタネイオンという施設で無料の食事が出来たのです。
『有罪者が年金(恩給)を要求し、それが罪の償いだなんて馬鹿にしてる』
とお思いでしょう。
しかし、有罪確定後に、駆け引きで罪を軽くするのがソクラテスには許せなかったし、問いかけをして『無知の知』の徳は、オリンピアの勝利者以上の自負があったのでしょう。(続)