「蒼磨様、今日も大学でごさいますか?」
「あぁ、伊甲子(いかし)教授の課外授業に直接声をかけられたんだ!
あの方は東京を、いや、この国を変えるお方だ!」
「…では、夕飯を作って待っております。」
「彩くん、僕は気にしないで。君は受験生なんだからね。」
「……。」
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夏休み。
蒼磨様からしっかりと勉強を教えて貰おうと、喜び勇んで上京したものの、蒼磨様は夏休みでも大学に行きっぱなし。
受験戦争が孤独な戦いなのは心得ていますが、これでは…。
「お弁当、そうだ。せめてお昼だけでも。
それに来年は自分も同じ大学に通うのだから、下見は必要…。」
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「伊甲子教授、『分裂』とは?」
「『東京新撰組計画』。犯罪軽減の為に、民間人の治安維持隊員を募集しても、集まったのは有象無象のゴロツキばかり。
彼らには信念がない。
命を投げ出しても構わないという、確個たる信念が!」
「そこで教授が顧問として招聘されたのですね。
中学の恩師でもある伊甲子教授の活躍に僕も心が躍ります!」
「だが私はどうしても菱方君達のやり方に賛成できなくてね。有志を募り『護衛隊』を結成することになりそうだよ。
だが、その為には一橋くん…。」
「申し訳ございません、僕と父は無関係です。
出資を父に進言することは出来ません!」
「そうか…手荒な手段は講じたくないが仕方がない。
連れてけ!」
「教授!何を?!」
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広い…。
まさか大学がこんなに広いとは…。
蒼磨様は何処へ?
この辺りに一番匂いが残ってるのだが…?
「大人しくしやがれ!」
「ガツン!」
「無礼者!恥を知れ!…って蒼磨様!?」
「やべぇ、見られたじゃねぇか!」
「女一人気にするな!それより早く車に押し込め!」
「…貴様等…我が主君に対する乱暴狼藉!許さん!」
「彩くん!?どうしてここに?」
「蒼磨様!今お助けします。
キィエーイ!」
「この女、化け物だ!」
「素人が銃も無しに私を相手しようとした度胸だけは誉めてやる。
…消えろ!」
「ば、馬鹿な、轢き殺してやる!」
「無駄だ。車なんかは止まった箱に過ぎない。
貴様がアクセルを踏んだと同時に、私の五本の小柄は4つのタイヤを正確に貫き、五本目の小柄はお前に三途の川をノーブレーキで渡らせる…。
試してみるか!!?」
「す、すんませんでした…。」
やれやれ、東京とは何とも物騒な所ですね。終