「いらっしゃ~い…って、佐田くんどうしたの?」
「店長、落合さんは?
宜しければ、少しお時間を頂きたいのですが?」
「宜しくなくても、曲げない勢いね?
いいわよ、暇だから奈々ちゃんには倉庫整理して貰ってるから。」
「倉庫ですね。
ありがとうございます。」
「あの真っ直ぐな目…。佐田くんのあの眼差しにやられて採用しちゃったのよねぇ~。」
店の裏口から出た所にプレハブを建てて倉庫として使ってる。
商品の在庫に什器や昔の書類を保管してるのだが…邪魔されない場所としては最適だ。
「ガラガラ」
と、勢い良く戸をスライドさせれば、背伸びして段ボールの箱を棚に直そうとする奈々子殿の後ろ姿。
「…そういう仕事は私がやりますよ。」
「佐田くん!?
どうしたの?今日休みでしょう?」
「…先に片付けを済ませてからにしましょうか…。」
「そんな、いいよ!
せっかくのスーツが埃まみれなるよ!」
「構いません、私はあくまで後輩ですから。」
****
「手伝ってくれてありがとう、ホントに助かったわ。
で、用件は何?」
「31日の夜、ASMOのカウントダウンライヴ誘いに来ました。」
「ASMOのライブ?凄いな、よくチケット取れたねー?」
(アスモデウスは人間界での人気がこれほどまでとは…。)
「ありがとう、単刀直入なお誘い嬉しいよ。
でも…駄目。
その誘いに今はOK出来ないの。」
「…何故?私のどこが…?」
「佐田くん、お願い、そろそろ本当の事を言って!
君は『私に会う為にここにバイトに来た』って言ったよね?
君が面白半分に、モテない私をからかう様な子じゃないことくらいわかってるし、地味な私を見下して誘ってるんじゃないことくらい知ってる!
でも…私、怖いの。」
「…怖い…?」
「佐田くんの目を見ていると、自分が自分で居られなくなる様な眼差しに危険を感じるの。
誠実で少し不思議な貴方はとても好感が持てるわ。
でも…何だか…私が、私の中の私が消えちゃいそうって思うの…。
ごめんなさい、佐田くんは何も悪くないわ。
私、面倒くさいよね…。
実はね、31の夜から、店のみんなで、ドライバーの赤羽さんに、日本の初詣を案内しようって話もあるんだよ。
だから…佐田くんが…。」
(余は今知った。ルシファーの魂を奈々子殿の肉体に移せば、奈々子殿の魂は消え去る。
余にそんな覚悟はないことを。)
「…赤羽さん、喜びますよ…。」