「バティン!何故お前が余の部屋に居る!?
奈々子殿の監視と護衛は?」
余の部屋に勝手に上がりこんで、勝手に余の蜜柑を食べながら、勝手に余の恋愛話で盛り上がってる部下達にいい加減腹が立つ。
しかし、怒りを爆発させてはいけない。
三人の魔王は人間界では先輩であるから、余は学ぶべきことがある。
だが!今のバティンは人間・佐田星明の契約悪魔だ!
警護しろと言ったことを実行せぬのは契約違反だ!
余の心情を察してか、魔界一の愛想の良いバティンは、切れ長の目を線にして微笑む。
「『佐田』様。ご心配には及びません。
私にはこれがあります。」
バティンが取り出したのは和紙を人型に切り抜いた紙人形。
「古来、日本には式神という文化があります。
多神教、精霊信仰の延長の陰陽道といいます。
これを私の分身とし、落合様に異変があれば、直ぐに私に報せが入ります。
我々の文化で言えばペーパーゴーレムですね。
瞬速の悪魔の私に相応しい小道具かと…。」
淡々と説明するバティンに気圧されする。
余よりも人間界が浅いバティンの方が、積極的に日本の文化を取り入れ、己を向上させているではないか…。
余が佐田星明の時給や若さを言い訳には出来ぬな…。
「では、行ってまいる。
店は近いからバティンはバイクになる必要はない。」
『行ってらっしゃいませ!ご主人様!』
「……。」
「お主ら練習したか?」
「…勿論です。」
「バティン、疑うわけではないが、余が奈々子殿を誘う時も、その『シキガミ』とやらは機能してるのか?」
「…何故それを聞かれますか…?」
「マモン爺に『質問に質問で返すな』と躾られなかったか?」
「…今の今まで失念しておりました…。」
「よもや、余が奈々子殿をライヴに誘う場面を、お主ら式神の生中継で楽しもうというのではあるまいな…?」
「…断じて、下級悪魔や低俗な人間の興味本位ではありません。
佐田様の奈々子殿へのお誘いは、我々にも多大な影響となります。」
「…疑うわけではないが、まさか余の誘いの成否を、お主らの賭けの対象にはしていまいな?」
「そーなんですよ、サタン様!ベルゼバブ様もアスモデウスちゃんも、強引に僕を『奈々子さんは承諾する』に賭けさせたんです。僕だって断られる方に賭けた…。」
「……。」
「痛い!痛い!サタン様、人間の肉体で関節技は致命的です!バティン助けて。」
「…賭け金は蜜柑ですよ、佐田様」