アジアン雑貨ティンブーにて
「イヴもクリスマスも通し出勤してくれて助かるわ、佐田くん。」
「当たり前のことです。でも、感謝の言葉を頂けるのは光栄です。」
「ホントに予定なかったの?学生の鶴野さんは彼氏とデートだしね。
イヴの日の今日は店長も、旦那さんと何年ぶりかに予定入れたみたいね。佐田くんのおかげよ!」
「奈々子さんが私を評してくれることだけが、私の悦びですよ…。
それにクリスマスは…。」
「クリスマスは…何?
佐田くんの個人的な主義主張があるなら、お姉さんが聞いてあげるよ~?
予定入れたくても入れられなかった強がりかなぁ?」
…あの日から随分日は流れた。
佐田くんは仕事にも慣れ、店にも私にも頼もしい存在になった。
なのに私は、まだあの光に包まれた男性が頭から離れない。
夢だと割り切れない自分が居る。
「クリスマスは…親に感謝する日ですから…。」
まさか佐田くんからこんな言葉が聞けるとは!
そういえば佐田くんのご両親って?
てか、ここに来るまで何してたのかな?
「おいおい、それは『誕生日は産んでくれた親に感謝する日』と混ざってるよ。」
「いえ、本当です。
どうせクリスマスにしか会えませんから。
この時期にトナカイ達を見れば、親を偲ぶことが出来ますから…。」
「へぇ~、サンタさんじゃなくて、トナカイに思い入れがあるなんて佐田くんって変わってるね。」
「ルドルフ、ダッシャー、ダンサー、プランサー、ヴィクセン、コメット、キューピッド、ドナー、ブリッツェン。
これが何だかわかりますか?」
な、何?佐田くん壊れた?イヤ、元々浮世離れしてるけど…今日は特に電波な…。
「トナカイの名前ですよ、奈々子さん。そのうちダンサー、プランサー、ヴィクセンは女性です。
やはり日本では認知度が低いですね。(必ず私が解放し、帰還させます…。)」
…佐田くんのご両親は海外を飛び回る仕事かな?
「ブル~ン。」
店の外に低音のエンジン音が響く。
「ラビット便の刈藻さんだわ、私が行くわ。」
今日の佐田くんからは少し離れたくて…。
「きゃあー!」
「奈々子さん、無事ですか?(まさか奴らが…。)」
「驚かせてすいません、前任の刈藻に代わりまして担当させていただきますマイク赤羽根と申します。」
「さ、叫んでしまって、ごめんなさい!夢の中の男性に貴方がそっくりだったので…。」
ミカエル殿!何て真似を!