「今日の牡羊座は運命の出会いが…。」
「それがホントなら今までの出会いは運命じゃなかったの?」
なんて朝のテレビに突っ込みを入れながら支度をする。
「そういや店長ったら、男の子のバイト採用したって言ってたけど…。」
ないない!バイト先に出会い求めてませんから!
はぁ~、でもなぁ~。いい男を今更期待はしてないけど、最低な男に遭遇するのは防げないのよね~。
夢を抱いて入ったはずの大学。期待を胸にした都会の一人暮らし。希望を叶えたかった雑誌社への就職…。
なのに私、落合奈々子の夢はたった三年で崩れた。
上司の執拗な誘いと先輩女性の妬みから体調を壊した。
復帰した後の私のポストは、嫌がらせの様なそっち方面の男性専門誌への配置転換だった…。
「田舎帰ろうかなぁ…。」
自分のペースで働ける今のバイト先が無かったら、私はとっくに決断してただろう。
店長も先輩もバイト学生の女の子も、快適な雰囲気に私は居場所を感じれた。
そして…。
「はじめまして、佐田星明(さだ せいめい)22才です。皆様、ご指導よろしくお願い致します。」
私のバイト先、「アジアン雑貨・ティンブー」に突如現れた長身イケメン!
最近の学生には無い、落ち着いた佇まいから育ちの良さが窺える。
いわゆる「チャラい」の欠片もない彼の外見に、私も含めてスタッフの女性が夢中になった!
ホントに運命の出会い…?
「じゃあ、佐田くん、朝は品出しからね。男手が入ってくれて助かるわ。
わからないことは落合さんに聞いてね。」
店長の指示により、私と佐田くんは一緒に商品陳列をすることになり…。
「ねぇ、なんでこのバイト選んだの?」
彼の顔を見ずに話かける。
彼も私を見ずに…。
「貴女に会う為です…。」
「こ、こら!おばさんをからかうな!
君はモテそうだからわからないかもしれないけど、私くらいの年になると切実なんだぞ?」
「年?時間の流れなどは主観的なものでしかない。
一夜の出来事が永遠に感じることもありますよ…。」
(ルシファーはミカエル殿に斬られた右手の痛みより、『裏切られた』との心痛の方が遥かに酷く、この2552年塞ぎっぱなしだ…。二人の為にも、何としてもこの女性に転生を…。)
「い、一夜の出来事って佐田君、そんな昼間から…!」
「あ~、奈々ちゃん駄目じゃない!佐田くん独り占めしたら~」
(ベルゼバブよ、案ずるほど大した作業では無さそうだぞ?)