「お前が毎日子供達に飯を出してやっても、腹を空かせた子供は減りやしない。
根本的解決が必要なんだ!
今はもう…隊長の遺志を継ぐのは俺しかいない!」
「無茶は止めろカツヒロ!お前には美しい錦絵を描いて人々の心を癒す力があるではないか!」
「なぁ、俺と東京へ行かないか?
こんな田舎より遥かに稼げるはずだ。」
「子供達は?」
「明日になればお前の事を忘れてるんだろう?
お前は俺だけが憶えていればいい。」
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(場面が変わった。サミアちゃんの記憶の断片をスキップしてるんだな)
「あれから二年…よくこれだけ造ったな。
こんな代物、一晩の雨でお釈迦だぞ?」
「雨が降ればおしまいなのはお前と一緒さ。
しかし、やっぱり東京は違う。
俺の錦絵は順調に売れてる。特に『隻腕の伊庭八』は大人気さ。」
「わ、私もカツヒロが描く伊庭八は大好きだ。い、嫌、それを描いてるカツヒロが…好きだ…。」
(サ、サミアちゃんがあの男の人を好きって言った!
何だろう、この気持ち…。この続きを見れば確実にサミアちゃんの名前がわかるのに、見たくない気持ちが…。)
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(また場面が…。この記憶のスキップは僕の意志ともリンクしてるのかな?)
「こっぴどくやられたなぁ、でも、萩、神風連の乱の二の舞にならなくて良かったではないか。」
「お前…止めなかったな…。」
「二年も止め続けて、21にもなったお前を今更止めようとも思わんさ。
心配させるな、私は夜更かしは苦手だ…。」
「なぁ…。」
「なんだ?」
「スコーンくれねぇか?」
「足を洗うならな(笑)。」
「わかってるさ。戦争ごっこは今日で終わりさ。明日から俺は絵師にして新聞記者だ。」
「カツヒロらしいな…。」
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(またスキップだ…。随分カツヒロさん大人になって…。)
「今年は台風が酷い。やっぱり『水神の洗礼』を…。」
「嫌だ!カツヒロに名前を呼ばれなくなるなんて私は堪えられん!」
「俺はお前に無事で居てくれたらいいんだ。
かくいう俺も『新聞紙条例』で書きたい事が書けなくなってる。『自分』を失うのは俺と同じだ。だから…。」
「わかった。洗礼を受けよう。だが私のことを忘れないでくれ。カツヒロだけは私を憶えていてくれ。」
「忘れない。俺が描く最後の絵にお前を選ぶ。永遠の愛の象徴だ。」
(賢司くん!時間よー!)
(燿子ちゃんが呼ぶ声。直接名前はわからなかったな…。)