「サミアちゃん、今日の僕の願いは、『君の過去を知りたい』だ。
話してくれる?」
「ふむ、それなら魔法を使うまでまない。話を聞きながら違う願いを考えておけ。だが、自分の願いにしてまで…なんて子供はお前が初めてじゃ。」
サミアちゃんはイギリスで生まれた211年の半生を語りだした。
「ワシが生まれたのが1802年、その三年後に蒸気機関車はブリテン島に新たな風をもたらした。
『鉄道時代』が産声を上げたのじゃ。
『彼女』の家族も機関車に乗って田舎町にやって来た。
姉の療養の為にな…。
最後から二番目のサミアッドが亡くなり、悲嘆にくれる40半ばの小娘のワシは…。
彼女に出会ったのじゃ。
1861年に3歳で父を亡くし、姉は満足に相手をしてくれず…、自然と彼女の拠り所はワシとなったのじゃ。
しかし、彼女が17の時、一家はロンドンに戻ることになった。
彼女はワシも一緒に来ることを願ったが、ワシは当時のロンドンでとても生活出来んのはわかっておった…。それが彼女との別れじゃ。」
「どうして?日本で暮らせるなら、ロンドンも一緒じゃない?」
燿子ちゃんは聞いた。
僕もそこまではわからない。
サミアちゃんの続きが気になる。
「理由があったんじゃよ。
『光化学スモッグ』じゃ。」
「スモッグ…大気汚染だよね?確かに19世紀じゃ、環境対策とかまだまだだよね?」
「喘息も多かったんだっけ?」
「その通りじゃ。土と空気の汚れでたくさんのサミアッドが亡くなった…。
『産業革命』は避けられないヨーロッパ全体の流れじゃった。
だからワシは先祖に別れを告げ、当時まだ発展途上と思われる日本を目指したんじゃよ。」
驚きの冒険談だ。土地に根付いた妖精が海を渡るなんて凄いチャレンジだよ!
「紅茶の積み荷の中で何日も船に揺られて…着いた。」
確か19世紀半ばから後半って、日本は明治初期かな?
イギリス生まれのサミアちゃんに日本はどう見えたんだろう?
「ワシは今でもこうやって、新聞を読むのが好きじゃが、日本に着いて驚いたのは、靴磨きの少年でさえ、新聞が読めることじゃ!」
「それ普通じゃない?」
「違うよ、燿子ちゃん、日本の識字率って凄いんだよ。」
「その通りじゃ。
そして漢字に慣れ出した1902年、遥かイギリスで一冊の本が出版されたのを新聞で知った。
ワシの100歳の誕生日に彼女=イーデス・ネズビットは「砂の妖精」を出版したのじゃよ。」